サイケデリックブルースロックから
アメリカンロックへと転身した
スティーブ・ミラー・バンドの
『ジョーカー』

本作『ジョーカー』について

療養期間中、キャピトルレコードはミラーのライヴ音源や残されたスタジオ音源をもとに、寄せ集め的な内容の『ロック・ラブ』(’71)、『エデンからの旅(原題:Recall The Beginning…A Journey From Eden)』(’72)、2枚組ベスト『アンソロジー』(’72)をリリースするものの、『アンソロジー』以外はセールス的には芳しくなかった。

ミラーの復帰後はメンバーも一新し、ジェラルド・ジョンソン(B)、ジョン・キング(Dr)、ディッキー・トンプソン(Key)の4人組でリスタート、73年にリリースされたのが8thアルバムとなる本作『ジョーカー』だ。

これまでのサウンドと違い、シンプルかつキャッチーなアメリカンロックへと変貌する。ブルースナンバーは取り上げているものの、こちらもすっきりと仕上げられているのが特徴だ。特にベースのジェラルド・ジョンソン(本作のあとデイブ・メイソンのグループに移籍)の参加で、明らかにノリが良くなっている。

収録曲は全部で9曲、「カム・オン・イン・マイ・キッチン」と「イーヴル」の2曲はライヴ録音で、「イーヴル」のベースはかつてのメンバーであるロニー・ターナーがベースを弾いている。ペダルスティールの入った叙情的な「サムシング・トゥ・ビリーブ・イン」も佳曲だし、ファンキーな「シュ・バ・ダ・ドゥ・マ・マ・マ・マ」やR&Bっぽい「メアリー・ルウ」などは軽快で、まさにアメリカンロックそのものだ。少しハードな「シュガー・ベイブ」も良いが、何と言っても「ジョーカー」の出来が際立っている。スティーブ・ミラーはアメリカンロック史上に残るこの名曲をものにしただけでなく、この後も最高傑作となる『鷲の爪』(’76)や『ペガサスの祈り』(’77)を立て続けにリリースし、アメリカンロックを代表するビッググループになるのである。

TEXT:河崎直人

アルバム『The Joker』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. シュガー・ベイブ/Sugar Babe
    • 2. メリー・ルー/Mary Lou
    • 3. シュ・バ・ダ・ドゥ・マ・マ・マ・マ/Shu Ba Da Du Ma Ma Ma Ma
    • 4. ユア・キャッシュ・エイント・ナッシング・バット・トラッシュ/Your Cash Ain’t Nothin’ But Trash
    • 5. ザ・ジョーカー/The Joker
    • 6. ラヴィン・カップ/Lovin’ Cup
    • 7. カム・オン・イン・マイ・キッチン/Come On in My Kitchen
    • 8. イーヴル/Evil
    • 9. サムシング・トゥ・ビリーヴ・イン/Something to Believe In
『The Joker』(’73)/Steve Miller Band

OKMusic編集部

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