ザ・バンドのデビューアルバム『Mus
ic From Big Pink』は、聴くほどに味
わい深い名盤!

ボブ・ディランのバックバンドを務めたことでデビューのチャンスを掴み、“ミュージシャンズ・ミュージシャン”と呼ばれるほど多くのアーティストに影響を与えたザ・バンド。名盤は数々あれど、やはりデビューアルバム『Music From Big Pink』
は抑えておきたい彼らの代表作だと思う。ちなみにアルバムのジャケットを描いたのはボブ・ディラン。温かみのある色使いで、どこか力が抜けていて見れば見るほど味わい深い。まるでザ・バンドの音楽のようだ。

アーティストに影響を与え、愛されたバ
ンド

 エリック・クラプトンが『Music From Big Pink』を「音楽人生を変えたアルバム」と評し、ジョージ・ハリソンが本作を爆買いして、「いいから絶対に聴いたほうがいい」と周囲に配りまくったというエピソードが伝えられている。また、いかに彼らが愛されていたかは1976年にサンフランシスコで行なった解散ライヴ『ラスト・ワルツ』のゲストミュージシャンの顔ぶれが証明している。ボブ・ディランを筆頭にニール・ヤング、エリック・クラプトン、マディ・ウォーターズ、ヴァン・モリソン、ドクター・ジョン、ジョニ・ミッチェル、ボビー・チャールズ、ロン・ウッド、リンゴ・スター、ポール・バターフィールドなどのそうそうたるアーティストがザ・バンドの解散を惜しんで駆けつけたのである。このライヴの模様は後にマーティン・スコセッシ監督によって映画化されて話題になったが、それほど、アメリカではザ・バンドの解散は事件であった。
 ちなみにザ・バンドの前身はアメリカのロカビリーシンガー、ロニー・ホーキンスのバックバンドだったホークス。メンバーは、リヴォン・ヘルム、ロビー・ロバートソン、リック・ダンコ、リチャード・マニュエル・ガース・ハドソンの5人。そのうちの4人がカナダ人であることはザ・バンドの音楽性と実は関係があるのではないだろうか。カントリー、R&B、ゴスペル、ジャズなどの影響を感じさせる彼らの音楽は、アーシーで渋いと同時にどこかフラットというか、不思議な温度感と奥行きを持っている。いわゆるアメリカっぽい泥臭さとかダイナミズムとは趣を異にするグルーブ、アレンジメントが印象的なのだ。
 余談になるが、当時、『Music From Big Pink』に収録されているボブ・ディランの曲「I Shall Be Relesed」が大好きで、英語の歌詞をノートに書いて、勝手に訳していた。“いつの日にか私は解放されるだろう”というサビの部分を自分に重ね合わせ、そんな至福の瞬間を朝日が昇る神聖な景色とともに浮かべ、いつか自分にもそんな時が訪れるのだろうかと憧れていたのである。大人になった今でも、この曲の境地にはまったく至っていないが、リチャードの澄んだファルセットと美しいメロディー、シンプルで味のある演奏を聴くと胸が締め付けられる。

アルバム『Music From Big Pink』

ホークスから名義を変えたザ・バンドの記念すべきデビューアルバム。そのタイトルの由来はボブ・ディランのバックバンドとしてツアーで各地を回っていた当時のエピソードと関係がある。1966年にバイク事故を起こしたディランが静養していたウッドストック近郊の家がピンクに塗られていたからだ。本作がそこでレコーディングされたというわけではないが、その家でディランとザ・バンドのメンバーがリハビリを兼ねたセッションを行なっていたというのは有名な話。両者の深い結び付きが生まれたピンク色の家から生まれた音楽という意味合いが込められたタイトルなのだろう。映画『イージー・ライダー』に使われたことでも有名な「The Weight」や先述した「I Shall Be Released」など話題性のある曲も収録されているが、決して派手な作品ではない。聴けば聴くほど味わいと深みが増していくアルバムであり、ザ・バンドの曲は20代にして早くもスルメレベルに達していた。後期のザ・バンドは消耗するツアーにフラストレーションを感じるようになったロビー・ロバートソンと他のメンバー間に溝が生まれ、結果、解散に至るのだが、この頃の彼らはきっと和気藹々と素晴らしい音楽を奏でることを楽しんでいたのだろう。秋の夜長にゆったり聴くのにはまる一枚である。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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