フールズ・ゴールドの2ndアルバム
『ミスター・ラッキー』は
歌も演奏も文句なしの傑作

『Mr. Lucky』(’77)/Fools Gold
ひと言にAOR/フュージョンといっても、両者にはさまざまな違いがある。分かりやすいように極論すれば、“歌”が中心(AOR)か、“演奏”が中心(フュージョン)かである。一方、共通点としては“都会的なサウンド”、“耳の肥えたリスナーを満足させるだけの演奏技術”などが挙げられるだろう。 AOR系のアルバムにおいて、バックミュージシャンとして多く参加していたのが、ドラマーのジェフ・ポーカロ(1992年逝去)、キーボードのデビッド・ペイチ、ベースのマイク・ポーカロ(or デビッド・ハンゲイト)ら、TOTOの主要メンバーである。中でも、ボズの『シルク・ディグリーズ』は時代の先端を行くサウンドで、多くの音楽ファンが注目し、商業的にも大成功した。日本でもレコード(今はCD)を買う際に参加ミュージシャンをチェックする人が増えるなど、スタジオミュージシャンという存在が大きな注目を集めることになった。日本でAORやフュージョンが流行したのも、彼らスタジオミュージシャンの優れた仕事にあったことも大きな理由のひとつであろう。
これらのアルバムが成功を収め、以降“売れる”と踏んだレコード会社の営業戦略として多くのAOR/フュージョン作品が粗製乱造されるようになる。デジタル時代を迎える80年代初頭あたりには、AOR/フュージョン作品が注目を集めることも少なくなっていく。ただ、内容が素晴らしいにもかかわらず、売れないアルバムが多かったことも事実である。今回取り上げるフールズ・ゴールドの2ndにして最終作となる本作『ミスター・ラッキー』もその一枚である。このアルバムは圧倒的な名曲名演揃いということに尽きるのだが、バックを務めるTOTOの面々をはじめ、凄腕のプレーヤーたちが歌伴を忘れたのかというぐらい演奏に力点を置いていて、それもまたこのアルバムの大きな魅力になっている。長い間、入手困難であったが、最近は廉価盤として再発しているので取り上げることにした次第。
ウエストコーストロックの登場
イーグルスのサウンドは以降多くのフォロワーを生むことになったが、イーグルス自身は4thアルバム『呪われた夜(原題:One Of These Nights)』(’75)でウエストコーストロックからの脱却を図っている。このアルバムでの方向転換は、一般のロックファンからは支持を集めることになったが、それまでのウエストコーストロック(カントリーロック)ファンはその多くが離れていく結果となった。
ウエストコーストロックを支持する原理主義的なリスナーは、その興味をイーグルス・フォロワーへと向けるようになる。バックエイカー、オザーク・マウンテン・デアデヴィルズ、ピュア・プレイリー・リーグ、ピアース・アロー、ファンキー・キングス(ジュールズ・シアーが在籍)などは、日本でも輸入盤専門店で大いに人気があった。
余談だが、このあたりの図式はアメリカではサザンロックでも同様の傾向があり、サザンロックを生み出したオールマン・ブラザーズ・バンドのフォロワーとして、マーシャル・タッカー・バンド、チャーリー・ダニエルズ・バンド、ウェット・ウィリー、グラインダースウィッチ、エルヴィン・ビショップ・バンドなどが次々に登場している。