『ポーキュパイン(やまあらし)』/エコー&ザ・バニーメン

『ポーキュパイン(やまあらし)』/エコー&ザ・バニーメン

ザ・スミスやオアシスの前に
彼らがいた!
エコー&ザ・バニーメンの名盤
『ポーキュパイン(やまあらし)』!

80年代前半、唯一無二のネオサイケデリック・サウンドを引っ提げ、シーンに現れてきたリヴァプールの4人組、エコー&ザ・バニーメン。彼らがいなければ、その後のUKロックはまた違うものになっていただろう。2作目の『ヘヴンズ・アップ・ヒア』、あるいは4作目の『オーシャン・レイン』を代表作に挙げるファンも少なくないと思うが、彼らの存在を多くの人に印象付けたという意味で、今回は3作目の『ポーキュパイン(やまあらし)』を取り上げた。

“ドアーズの再来”的存在から
ネオ・サイケデリックの旗手に

デビュー当時、言われたという“ドアーズの再来”は正直、あまりピンと来なかったものの、深夜の洋楽番組(なんてものが当時はまだ放送されていた)でミュージック・ビデオをたまたま観た「ザ・カッター」は、パンクの延長上でパンクロックの枠組みに収まらない音楽を求めていた人間には十二分に刺激的だった。その時、初めて知ったバンドの名前はエコー&ザ・バニーメン。リヴァプールのバンドだという。早速、「ザ・カッター」が収録されている(当時の)最新3rdアルバム『ポーキュパイン』を手に入れた。
“エコバニ”ことエコー&ザ・バニーメンの結成は78年の夏のことだった。イアン・マッカロク(Vo& Gu)とウィル・サージェント(Gu)が出会い、“エコー”と名付けたドラムマシーンを使って、曲作りを始めたことがそもそものスタートだったそうだ。その後、レス・パティソン(Ba)を迎え、地元のクラブのステージに立つ頃にはエコー&ザ・バニーメンと名乗っていた。
79年、地元のインディーレーベルからシングル「Pictures On My Wall」をリリースしたエコバニはライヴに加え、そのシングルの評判を足がかりにメジャーレーベルと契約を結ぶと、ピート・デ・フレイタス(Dr)を迎え入れ、80年に1stアルバム『クロコダイルズ』をリリースした。『ポーキュパイン』から遡ってこの『クロコダイルズ』を聴いた筆者は荒々しさと刺々しさに満ちたサウンドに若干、戸惑いながら、なるほど、“ドアーズの再来”とはこういうことかと納得したわけだけれど、パンクの延長上で、そのドアーズや13thフロア・エレヴェーターズといった60年代のガレージ/サイケバンドの亡霊を蘇らせ、その後のUKギターロックの新しい可能性を提示してみせることで存在感をアピールしたエコバニはその後、アルバムを発表するごとにネオ・サイケデリックと名付けられたサウンドを磨き上げていくことになる。

アルバム『ポーキュパイン』

この『ポーキュパイン』は前作『ヘヴン・アップ・ヒア』(81年)で1stアルバムに残っていた60年代臭を払拭して、唯一無二のネオ・サイケサウンドを完成させたエコバニが新たな可能性を求め、作り上げた3作目のアルバムだ。ネオサイケに止まらない音楽性の広がりを求めるという挑戦はそれまで楽曲を覆っていた靄が晴れたような印象とともにアルバム全体を通して、キャッチーな魅力をアピールすることにつながっているが、それが顕著に表れたのがアルバムに先駆け、リリースした「バック・オブ・ラヴ」と「ザ・カッター」という2枚のシングルだった。
ヴァイオリンがエキゾチックなムードを醸しだすアルバム1曲目の「ザ・カッター」、ウィル・サージェントがパラノイアックともヒプノティックとも言えるギターのカッティングを奏でる「バック・オブ・ラヴ」ともに、うねるようなリズムが印象的だが、そのリズムアプローチや7曲目の「ライプネス」のファンキーな演奏はその後、シングルとしてリリースした「ネヴァー・ストップ」のディスコサウンドに発展。大いにファンを驚かせたが、「ザ・カッター」と「バック・オブ・ラヴ」が持つキャッチーな魅力が物を言ったのか、『ポーキュパイン』はエコバニ史上最高の全英2位を記録した。
たぶん、筆者もそうだったようにここから彼らのファンになったという人も少なくないんじゃないか。アルバムの成功が背中を押したのだろう。『ポーキュパイン』の成功によって、イギリスのみならず、アメリカにおける人気も確かなものにした彼らは前述した「ネヴァー・ストップ」のディスコ路線や『オーシャーン・レイン』('84)における大胆なストリングスの導入など、新たなサウンドに挑んでいった…。しかし、『オーシャン・レイン』発表後、活動休止したことや原点回帰を目指してセルフタイトルのアルバムをリリースしながら、結局、イアン・マッカロクの脱退を経て、バンドが解散してしまったことを考えると、『ポーキュパイン』の成功が大きなターニングポイントだったような気もするのだが、そんなふうに言ってしまったらちょっと皮肉すぎるだろうか。『クロコダイルズ』の暗黒サイケ路線を究めて、カルトバンドとしてロック史に名を残すという道もあったんじゃないかという妄想を筆者はいまだに捨てきれないのだが、97年にイアンとウィルを中心に再結成したエコバニは現在もマイペースで活動を続けている。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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