フィルモア・イーストで
ライヴ録音された
タジ・マハールの異色作
『ザ・リアル・シング』

『The Real Thing』(’71)/Taj Mahal

『The Real Thing』(’71)/Taj Mahal

90年代になって新たに登場したアメリカーナというジャンルは、60年代から活躍するルーツ系ミュージシャンの立ち位置を明確にする役割を果たしたと言えるかもしれない。ザ・バンドやライ・クーダーなどは、ぎりぎりアメリカンロックと呼んで呼べないことはないかもしれないが(やっぱり無理か…)、黒人アーティストのタジ・マハールはまさにアメリカーナ系アーティストの最右翼だろう。彼はデビュー前からブルースをはじめ、ロック、フォーク、ソウル、ブルーグラス、ジャグバンド、オールドタイム、ワールドミュージックなどのさまざまな音楽に精通していたのだが、レコード会社はブルース1本に絞って無理矢理ブルースロッカーという括りでデビューさせている。ジャンルをまたがるような音楽は売れないと考えられていた時代ならではの、まさに苦肉の策であった。今回紹介する『ザ・リアル・シング』は通算5枚目となるタジの初のライヴアルバムだ。本作はロック色が濃く、タジがブルースロッカーという呪縛から解放されただけでなく、チューバ4本をバックに従えるなどかなり異色の作品ではあるが、ライヴの熱気が伝わる傑作に仕上がっている。

インテリ黒人としての育ち

タジの父親はジャズピアニスト兼アレンジャーを務めており、彼は生まれた頃から世界中のワールドミュージックを聴くなど、音楽的に恵まれた環境にあった。両親の勧めで幼少期からクラシックピアノやクラリネットを習い、さまざまな音楽を浴びるように聴いていた。彼の育った東部のマサチューセッツ州は、ニューヨークのグリニッチビレッジと並ぶフォークリバイバルの中心で、ライヴの観られるカフェ(クラブ47など)もあって、ボブ・ディラン、ジョーン・バエズらのような著名なアーティストが毎日のように出演している。思春期になると彼もまたフォークリバイバルの洗礼を受け、スリーピー・ジョン・エスティス、ロバート・ジョンソン、ガス・キャノン、ウディ・ガスリーらのレコードを聴き、ギターやマウスハープを練習するようになる。農業の勉強をするためにマサチューセッツ大学に入学するものの音楽活動は辞められず、プロになるためにカリフォルニアへと移ったのだった。

ブルースの研究

64年に西海岸に移り、ライ・クーダーとともに伝説のライジング・サンズを結成すると、ライヴハウスではバーズと並ぶ人気グループになり、大手コロンビアレコードと契約する。ところが、ジャンルにとらわれない彼らの音楽性が仇となり、シングルをリリースしただけでアルバムは結局リリースされることはなかった。この時の録音が世に出るのは92年になってからである。フォークリバイバルに影響を受けたライとタジは音楽的な傾向は似ており、ふたりともトラッドを追求したニュー・ロスト・シティ・ランブラーズに大きな影響を受けていると言っていいだろう。タジは西海岸でブルースの大物たち(ハウリン・ウルフ、ライトニン・ホプキンス、バディ・ガイなど)との付き合いを通してブルースの研究を真剣にやるようになり、ソロとしてデビューを果たす。

OKMusic編集部

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