リッキー・リー・ジョーンズのデビュ
ーアルバム『浪漫』は賞味期限なしの
名盤!

リッキー・リー・ジョーンズを初めて聴いた時、その歌声、歌い回しに衝撃を受けた。もしもCDショップで彼女の曲がかかっていたとしたら、間違いなく「今、かかっている曲を歌っているのは誰ですか?」と店員さんに尋ねただろうと思う。自由奔放でちょっと気怠そうで、それでいてお洒落なリッキーのヴォーカルスタイルは誰にも真似できない個性を放っていた。そんな彼女の名盤と言えば、やはり代表曲にして今、TVのCMで流れたとしてもまったく違和感がないだろうと思われるヒット曲「恋するチャック」を含む1stアルバム『RICKIE LEE JONES(邦題:浪漫)』だろう。後に触れるがこのアルバム、参加ミュージシャンに錚々たる顔ぶれが揃っているのである。

クールで知的で自由奔放なヴォーカルが
リッキー最大の魅力

 シカゴ出身のリッキー・リー・ジョーンズはデビューした時、すでに25歳。彼女がどんな人生を歩んできて、L.A.のクラブで歌い始め、デビューすることになったかは謎に包まれている部分が多いが、ドラッグに溺れていた時期があったとか、放浪生活をしていたとか、トム・ウェイツの恋人だったとか、噂には事欠かなかったようだ。「恋するチャック」がヒットしていた頃、リッキー・リー・ジョーンズのアルバムのジャケットを見て、その歌と彼女のビジュアルがあまりにもハマりすぎだったのに驚いた記憶がある。無造作なロングヘアーにベレー帽をかぶり、タバコを燻らせている(当時は楽器かと思っていた)物憂げな表情、少女と大人の女を行き来しているような独特のムードに「こういう歌を唄う人はやっぱりカッコ良い女性なんだ」とますますリッキー・リー・ジョーンズの世界に引き寄せられていった。あの頃は感覚でキャッチしていたが、今、思うのは彼女のヴォーカルはある意味、ラップにもポエトリーリーディングにも通じているということだ。そう思うとトム・ウエィツと交流があったのも納得なのだが、歌手であり、詩人なのである。時に彼女はしゃべるように早口で歌い(その発音はアメリカ人でも聞きとるのが困難な箇所があるらしい)、時にグルービーに夜の風景を浮かび上らせる。なお、リッキー・リー・ジョーンズは1979年にグラミー賞最優秀新人賞を獲得。デビュー後も、数々の名作を生み出し、2012年にリリースされたアルバム『THE DEVIL YOU KNOW』ではローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」やニール・ヤング、ヴァン・モリソン、ザ・バンドなどお気に入りのロックナンバーをカバーし、今なお個性派シンガーとして活躍している。

アルバム『浪漫』

 無名だったリッキー・リー・ジョーンズの名前を一躍、知らしめることになった大ヒット曲「恋するチャック」で幕を開ける1stアルバム。まず、一番訴えたいのは本作が1979年に発売されていることが信じられないほど、全11曲が新鮮に響いてくることだ。つまり、彼女の歌には賞味期限は存在しない。この稀有な才能と魅力を持つシンガーをサポートしたミュージシャンはマイケル・マクドナルド、スティーブ・ガッド、ジェフ・ポーカロ、ランディ・ニューマン、ニール・ラーセン、トム・スコットなど、当時、西海岸を中心に活躍していた超一流の顔ぶればかり。これだけで、いかにリッキー・リー・ジョーンズがレコード会社から期待されていた存在だったかが分かるというものだ。ジャズ、ロック、ソウル、ブルース、カントリー、フォークなど様々なジャンルを独自にブレンドした音楽は洗練されているが、そこに彼女の知的で奔放なヴォーカルが加わることによって何とも言えない味わいとマジックが生み出されている。ちなみに5曲目に収録されている「イージー・マネー」はデビューのきっかけとなったブルージーなナンバーで、この曲のデモテープをリトル・フィートのローウェル・ジョージがいたく気に入った(自身の作品でも彼女の曲をカバー)。“イージー・マネー”とか“キャデラック”など出てくる言葉の発音の仕方がいちいちカッコ良い。今、聴くとバラードにも切なく深みのある名曲が多く、しばらく、またヘヴィローテーションになりそうだ。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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