デビッド・ボウイに発見された
スーパー・ギタリスト、
スティーヴィー・レイ・ヴォーンの
『テキサス・ハリケーン』

『Couldn't Stand the Weather』(’84)/Stevie Ray Vaughan

『Couldn't Stand the Weather』(’84)/Stevie Ray Vaughan

テキサス・ローカルで活動していた白人ブルースマンのスティーヴィー・レイ・ヴォーン。南部音楽を世界に広めた敏腕プロデューサーとして知られるジェリー・ウェクスラーの推薦で82年の『モントルー・ジャズ・フェスティバル』に登場、そこからスティーヴィーの破竹の歴史が始まると言ってもいいだろう。そのステージを見て彼を世に出したいと動いたのがデビッド・ボウイとジャクソン・ブラウンだ。ボウイは自身最大のヒットアルバム『レッツ・ダンス』のギタリストとしてスティーヴィーを全面的に起用し、そのおかげでスティーヴィーの名前は一挙に知られることとなった。一方、ブラウンはというと、自分のスタジオをバンドのリハーサルに使わせ、その時の録音がスティーヴィーのデビュー作となる『テキサス・フラッド』につながったのである。今回はスティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルの2作目で、ジミヘンの「ブードゥー・チャイル(スライト・リターン)」のカバーを収録するなど、デビュー作と比べるとよりロック色が濃く出た『テキサス・ハリケーン(原題:Couldn’t Stand The Weather)』を取り上げる。

様々な音楽が交錯する
テキサスという風土

ブルース、カントリー、フォーク、R&B、ソウル、ジャズなど、これらはどの州でも盛んな音楽であるが、テキサス州ではそれら全てが独特の成長を遂げている。古くはメキシコ領だったこともあって人種の混合も多く、元フランス領のルイジアナ州やネイティブ・アメリカンの多いオクラホマ州と隣接していたことも、テキサスならではの芳醇な音楽が育つ土壌であったと言えよう。

例えば、ジャズではエレキギターを初めて使ったチャーリー・クリスチャン、ブルースとカントリーが得意の黒人ブルースマン、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン、ラグタイムやジャグバンド音楽の香りがするブラインド・レモン・ジェファーソン、ジャズとカントリーをフュージョンさせたウエスタン・スウィングの巨匠ボブ・ウィルス、テックスメックスのフレディ・フェンダー、アメリカーナ系アーティストのダグ・サーム、ロックではパンクの元祖として知られるロッキー・エリクソン率いる13thフロア・エレベーターズなどがいる。ジャニス・ジョプリン、スライ・ストーン、キング・カーティス、ビヨンセらもテキサス出身のアーティストたちだ。

粘っこいブルースギター

スティーヴィー・レイ・ヴォーンもやはりテキサス出身だけに、王道のブルースというよりはロックやR&Bの影響を受けたサウンドである。特にギターワークに関しては、ジミ・ヘンドリクス、アルバート・キング、アルバート・コリンズの3人に大きな影響を受けたと思われる。彼らから譲り受けた「破壊性と革新性」(ジミヘン)、「粘っこさ」(キング)、「切れ味鋭いシャープさ」(コリンズ)は、スティーヴィーのプレイ上でなくてはならない要素となっている。早弾きの部分ではジョニー・ウィンター(テキサス出身)から学んだのかもしれないが、スティーヴィーの感性がウィンターよりブルース寄りであることは間違いない。白人ギタリストでスティーヴィーほどの黒っぽさを持ったプレーヤーは、彼以前には60年代から70年代はじめに活躍したマイク・ブルームフィールドぐらいしか思いつかない。それぐらい彼のギターはテクニカルでパッションに満ち、聴いているだけでパワーのお裾分けをしてもらったような気分になるのだからすごい個性である。

デビッド・ボウイの戦略

83年にリリースされたデビッド・ボウイの『レッツ・ダンス』は、当時流行っていたディスコ音楽やシンセポップなどを取り入れ、ボウイ最大のヒットアルバムとなった。リリース当初、70年代からのボウイのファンは、このアルバムに反発を感じる者も少なくなかった。80年代初頭、音楽のデジタル化が押し寄せた時に背を向けていた頑固なロックファンは、70年代の音楽を聴き続けていた。ところが、しょっちゅうラジオや街角でオンエアされていた「レッツ・ダンス」を聴いて、多くの頑固者は驚いた経験があるに違いない。なぜなら、無機質なディスコ風リズムとチープなシンセ音の合間に、なぜか本物のブルースギターが鳴っていたからだ。この曲を聴いて、80年代のロックやポップスを受け入れられるようになったという中年は、当時かなり存在したのではないかと推測する。そして、そのブルースギターを弾いていた人物がスティーヴィー・レイ・ヴォーンというギタリストだと知ることになる。

実際、ボウイはこういう戦略で『レッツ・ダンス』をリリースしたのではないかと僕は思っている。もっと言えば、ここで聴かせるのはブルースギターでなく、ロック(例えばクラプトンやベックなど)の有名ギタリストでも十分話題性はったはずである。が、ボウイはあえてスティーヴィーのギターを使った。これはボウイの悪戯心としか考えられないのだが、アナログに固執する人間をデジタルに目を向けさせるという意味では、大きな成果を得たのである。

OKMusic編集部

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