サンタナのデビューアルバム
『サンタナ』

『Santana』(’69)/Santana
ビル・グレアムの秘蔵っ子
フィルモアの出演者はビル・グレアムの厳しい耳で選ばれたアーティストばかりであったが、中でもサンタナはグレアムのお気に入りで、のちにグレアムは伝記の中で「レコードを出していないのにフィルモアのトリをとったバンドは後にも先にもサンタナだけだ」(『ビル・グレアム ーロックを創った男ー』ビル・グレアム&ロバート・グリーンフィールド著、大栄出版刊、1994年)と語っている。
また、フィルモアで3日間にわたって行なわれたコンサートの模様を収めたアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドのライヴ盤の傑作『フィルモアの奇蹟(原題:The Live Adventure Of Mike Broomfield And Al Kooper)』(’69)では、ブルームフィールドが体調不良で休んだ最終日にカルロス・サンタナとエルヴィン・ビショップのふたりがグレアムに呼ばれて参加しており、アルバムの裏ジャケットには「Featuring Eivin Bishop, Carlos Santana」との表記がある。ビショップは誰もが知る著名なアーティストであるからいいのだが、サンタナはデビュー前にもかかわらず名前が記されているのだから、グレアムがどれだけサンタナを買っていたかがよく分かる。
極めつけは、グレアムが『ウッドストック・フェス』のプロモーターから協力を求められた時「新人のサンタナを『ウッドストック』に出演させなければ、このフェスには協力しない」と言ったことだろう。
『ウッドストック』での
圧倒的なパフォーマンス
彼らはそれまでいくつかの大きなフェスに参加はしていたものの、この土曜日には経験したことのない30万人もの観衆が集まっていたのである。カルロス・サンタナは当時のことを「あれだけの大観衆の前で演奏することに関しては、結構ビビってたんだ。でも、ビル(グレアム)ができるって言ってくれてるんだから、きっとできるということになった。(中略)俺はただひたすら演奏した。なんとか音を外しませんように、リズムがちゃんとキープできますように、って神様にお祈りしながら」(前掲書)と新人らしい心の内を語っている。
彼の言葉とは裏腹に、大観衆はサンタナの圧巻のパフォーマンスに酔いしれ、終わってみれば他のどの出演者よりも成功を収めたのである。このフェスの模様は翌年に映画で公開され、オリジナル版では「ソウル・サクリファイス」の1曲のみが紹介(実際にフェスで演奏したのは7曲)されただけではあったが、サンタナの優れたパフォーマンスは世界中に知られることとなった。