大晦日からニューイヤーへ。
全盛期のザ・バンド+ディランの
傑作ライヴで新年を熱く楽しむ

『Live At The Academy Of Music 1971 : The Rock Of Ages Concerts』(‘13) / The Band

『Live At The Academy Of Music 1971 : The Rock Of Ages Concerts』(‘13) / The Band

2024年の幕明け。ニューイヤーということで、何か選りすぐりのアルバムはないかと探し、 ピックアップしたのが本作。ザ・バンドの『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック 1971 ロック・オブ・エイジズ・コンサート』。今から53年前、1971年の大晦日から1972年のニューイヤーにかけての、いわゆる「年越しライヴ」で、ショーの中でそのタイミングをとらえた場面もあるのが選択理由のひとつ。で、私自身、その感興を味わいたくて過去に同じようにカウントダウンのタイミングを合わせてリスニング追体験してみたことがあるし、実は今も毎年、新年の“聴き初め”というものを、このアルバムでしているのである。

その場面は「ザ・ジェネティック・メソッド」で聴くことができる。ガース・ハドソンの、他ではまず聴けないソロ演奏で、そのパイオニアとも言うべきローリー・オルガン(Lowrey Organ)を駆使してのパフォーマンスだ。広い会場に響き渡る不思議な旋律、バッハのような古典的なクラシック、バロック音楽からアメリカ南部のゴスペル、ラグタイムまで次々に溢れ出てくる。その響きと相まって思いっきり祝祭感が高まったところで、おそらくは時計の針を横目にタイミングを見計らいながら、「蛍の光(原題:Auld Lang Syne)」のメロディーを弾く。歓声と共に観客か、あるいはメンバーの交わす「ハッピー・ニューイヤー!」の声が拾われている。なんとも粋な演出だ。

そして、間髪を入れず、ガースらしくアヴァンギャルドに「蛍の光」は崩され、即興演奏が続き、メンバーが合流するかたちで「チェスト・フォーバー」になだれ込んでいく。まさに白眉とも言うべき場面で、そこからセカンド・セット、ステージ後半に向けて、ステージはヒートアップしていく。約7分半ほどの、めくるめく独壇場。
※この「ザ・ジェネティック・メソッド」→「蛍の光」→ 「チェスト・フォーバー」という演出は大晦日に限らず、12月28日から31日までの4公演で毎夜2ndセットに組まれたものらしく、『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック 1971 ロック・コンサート デラックス・エディション』ではディスク2、ディスク4で聴くことができ、双方に微妙な演奏の長さ、即興演奏に違いがある。

かつての名盤
『ロック・オブ・エイジズ』とは
別物? 本物?

この『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック 1971 ロック・オブ・エイジズ・コンサート』はかつて『ロック・オブ・エイジズ』(‘72)として、ザ・バンドの通算5作目、彼ら初のライヴアルバム(2枚組)として発表されたものと同じ音源が元になっている。それが2013年にロビー・ロバートソンの手によって装いも新たに編集およびリミックス作業を加えて制作され、発表されたのが『ライヴ・アット・アカデミー~』というわけである。少し話がややこしくなって申し訳ない。『ロック・オブ・エイジズ』のほうもプロデュースはザ・バンドとなっているものの、実際にはロビーが主軸で関わっていることは察しがつく。なお、エンジニアはフィル・ラモーンの手にゆだねられている。
※フィル・ラモーンはポール・サイモンの多くの作品を手がけた名匠級のプロデューサー、エンジニアで、この後、ボブ・ディランとザ・バンドの共演ライヴ作『偉大なる復活(原題:Before the Flood)』(‘74)のエンジニアも担当している。

実は『ロック・オブ・エイジズ』について以前にこの連載で紹介済みで、アルバムのこと、ザ・バンドのこと、その音楽の凄さ、ポピュラー音楽の中での彼らの存在意義など紹介されているので、そのあたりぜひリンクページをお読みいただきたい。
■ザ・バンドの傑作『ロック・オブ・エイジズ』は入門用にもってこいの逸品!
https://okmusic.jp/news/275626
2012年ごろだったと思うが、彼らの『ライヴ・アット・アカデミー~』、つまり、あの年越しライヴの拡大版が出るらしいという情報が入り、それは期待させるものだった。より臨場感のある音像で、音質が大幅に向上した『ロック・オブ・エイジズ』が出るのなら、それは聴いてみたい! デカい音で鳴らしてみたい! だけどなぁ…。

楽しみではあるけれど、激しく熱望したわけではなかった、というのが正直なところ。というのは、すでにある『ロック・オブ・エイジズ』が充分に素晴らしかったからだ。だから、いざCD4枚+DVD1枚からなる『ライヴ・アット・アカデミー~』のデラックス盤(※CD2枚組の通常盤も同時リリース)が手元に届き、その構成を目にした時はものすごく困惑した。何せ曲順がまるで違っているのだから。聴いてみるとミックス違いもそこかしこにあり、同一の演奏という触れ込みながら、別のライヴのバージョンではないかと思うものもある。だいいち、なんだろう、このボリュームは。

『ロック・オブ・エイジズ』のオープニングはロビー・ロバートソンの挨拶から始まったものだった。「今日は以前とは違う、新しいことをやるよ…」と、そしてハワード・ジョンソンをはじめとしたホーンセクションを紹介する。そこから軽いホーン類の音出しがあり、一瞬の間のあと、静寂を破るようにリック・ダンコのベースとリヴォン・ヘルムのドラムによる「ドント・ドゥ・イット」(マーヴィン・ゲイのカバー)のイントロが始まる。なんとクールな! この一瞬で私などはノックダウンされたのだが、『ライヴ・アット・アカデミー~』にはそれがない。というか曲順が変わり、ロビーの挨拶はどこへ行ったのか?
※デラックス盤のディスク4の冒頭に、少し編集し、短縮された挨拶が収録されている。

だから、『ライヴ・アット・アカデミー~』にはがっかりかと言えば、全然そんなことはなく、これはとんでもなく素晴らしいリイシュー作で、あえて言えば『ロック・オブ・エイジズ』とはもはや別物と考えるべきだろう。どちらも傑作ライヴであることは揺るぎない事実である。

OKMusic編集部

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