ロン・ウッドのレイドバックを
楽しみたい『俺と仲間』

『I've Got My Own Album to Do』(’74)/RON WOOD
スモール・フェイセズからフェイセズへ
その頃、ジェフ・ベック・グループにいたロッド・スチュワートとロン・ウッドはスモール・フェイセズからマリオットが脱退したことを知り、グループのメンバーである旧知のロニー・レインとコンタクトを取り、ふたりの参加が決まった。当時、ジェフ・ベック・グループは『トゥルース』(‘68)『ベック・オラ』(’69)の2枚の名作を生み出していたが、ロン・ウッドは『トゥルース』リリース後のツアーで一度ベックから解雇されていたし、そもそもジェフ・ベックのきっちりした音作りとロン・ウッドの大らかな音楽性は相入れるはずがないのである。そんなこともあって、ロン・ウッドとロッド・スチュワートはスモール・フェイセズに加入、それを機にスモール・フェイセズはフェイセズと改名する。
レイドバックしたサウンドが
持ち味のフェイセズ作品
2枚目の『ロング・プレイヤー』(‘71)は1作目同様、アメリカのバンドかと思わせるさまざまなスタイルのルーツロックが詰め込まれていて、このアルバムも良い。ロッドの歌、ウッドのギター、マクレガンのキーボードと、フェイセズは3本の柱で骨太のサウンドを展開している。ただ、ここまでは“こんなこともあんなこともできます”という紹介に終始しているみたいで、リスナーが散漫な印象を持ってしまうのもまた事実であった。
そして、次作の『馬の耳に念仏(原題:A Nod's As Good As a Wink... to a Blind Horse)』(‘71)でフェイセズは開眼する。このアルバムはロックンロールバンドとしての力量が発揮されたブリティッシュロック史上に残る名盤だ。マクレガンのキーボードの素晴らしさはもちろん、ロン・ウッドのギターも締まったプレイであった。これは前作までのセルフプロデュースからグリン・ジョンズを共同プロデューサーに迎えたことが大きい。この作品では大ヒットした「ステイ・ウィズ・ミー」をはじめアルバムの半数がロッドとウッドの共作で、ソングライティングも冴え渡っている。要するにグループとして脂の乗り切った時期であったのだろう。ウッドはスライドの他、ペダルスティールギターも弾いており、どれも彼の人柄がしのばれる温かみのあるプレイが聴ける。
続く『ウー・ララ』(‘73)は最後のスタジオ作で全英1位となった。このアルバムが1位になった要因はスチュワートのソロ作品の人気が高かったことが大きい。彼はグループ活動と並行してソロ活動にも積極的で、すでにロッククラシックとなっている「マギー・メイ」(’71)を全英1位にしているのだ。『ウー・ララ』の出来は前作より劣る気もするが名曲は多い。特にロニー・レインの曲作りが光るB面(6〜10曲目)の充実度は濃密だ。
本作『俺と仲間』について
参加メンバーは、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ(ロン・ウッドとは双子みたいなギタリスト)、ミック・テイラーのストーンズチーム、イアン・マクレガンとロッドのフェイセズチーム、ジェフ・ベック・グループ時代の盟友ミッキー・ウォーラー(ドラム)、ジョージ・ハリスン、デビッド・ボウイ、そしてリズムセクションにはアメリカ最強のウィリー・ウィークスとアンディ・ニューマークのコンビなど、ロン・ウッドの友人たちばかりで占められている。本作を聴いて感じるのは、友達と呑みながら余興で演奏もしてみました的な感覚。
リズムセクションをはじめ、参加しているのは熟練したメンバーばかりなので演奏は悪くなりようがない。サウンド的にはディランとフェイセズとストーンズをミックスした感じで、そういう意味ではロン・ウッドらしさの出た仕上がりだと言える。結局、本作がきっかけとなって、彼はこの後ストーンズに加入することになる。
収録曲は全部で11曲。ジョージ・ハリスンとウッドの共作「Far East Man」、ジャガー&リチャーズの「Act Together」「Sure The One You Need」、ボニー・レイットやアメイジング・リズム・エイセズの名演でも知られるルディ・クラークのソウル名曲「If You Gotta Make a Fool of Somebody」の他、ロン・ウッド作の曲は、まるでロニー・レインが書いた曲のようなやさしさを持っている。アルバム最後を締め括るのはウィリー・ウィークス作のインストで、スタジオでのジャムをそのまま録音したであろうナンバー。
本作は、ロック史に残るとか、大ヒットするとか、テクニックがすごい、とかいう性質のアルバムでは決してないが、ロックの楽しさや良い曲を味わいたい人は、ぜひ聴いてみてほしい。僕はこのアルバムを事あるごとに、特にゆったりしたい時に聴くことが多いが、そのたびにロン・ウッドの気取らない、そして彼の人懐っこさをしっかり感じるのだ。一生、付き合っていきたいアルバムである。
TEXT:河崎直人
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