70年代初頭、ロックギタリストとして
不動の地位を築いたロリー・
ギャラガーの名盤『タトゥー』

『Tattoo』(’73)/Rory Gallagher
ハードロックの萌芽となるテイスト結成
噂を聞きつけたクリームのマネージャー、ロバート・スティグウッドはテイストを第2のクリームに育てようと、68年に行なわれたクリームの解散コンサートの前座に抜擢する。この時の演奏でより多くの人に注目され、テイストはポリドールレコードと契約し、翌69年にはデビューアルバム『テイスト』でメジャーデビューする。
テイストはザ・フーやブラック・サバスを思わせるようなハードなスタイルで、まさに熱いロックを展開していた。当時のブリティッシュロック界はフリートウッド・マックやサヴォイ・ブラウンなど、地味でマニアックなブルースバンドが多かったが、テイストはよりロック的なサウンドが持ち味で、ギャラガーのギターを全面的にフィーチャーしており、最初期のハードロックと言っても過言ではないぐらいの音圧であった。この『テイスト』は良い作品であることは確かだが、まだまとまりに欠けるところと良い曲が少ないのが残念だ。
それを克服したのが2ndアルバムの『オン・ザ・ボーズ』(‘70)。このアルバムは全曲ギャラガーのオリジナルで占められ、ギタープレイはブルースをベースにジャズ的なインプロヴィゼーションを展開するなど(ここでギャラガーはフリージャズっぽいサックスソロも披露している)、ギャラガーの才能が開花したテイストを代表する作品である。
テイストを解散し、ソロ活動へ
しばらくの充電期間後、新しいメンバーと活動を始め(テイストと同じくトリオ編成)、以降はソロアーティストとして活動していく。そして71年、待望の1stソロアルバム『ロリー・ギャラガー』をリリース。テイストの『オン・ザ・ボーズ』を発展させたような、彼の多彩な音楽性を披露する作品となった。テイストのハードロック的エッセンスは後退し、その代わりにトラッド的なものやカントリーブルース的なナンバーを新たに取り入れている。
また、一部ではピアノを加えるなど、このアルバムは彼の新しい一面が表現された佳作となった。ギタープレイはもちろん、特にソングライティングは冴え渡っており、テイスト時代と比べると一気に良い曲が増えている。もちろん収録曲は全曲ギャラガーの作詞作曲である。一部ではデュアン・オールマンを手本にしたギタープレイもあり、彼の貪欲さが見てとれる。
クラプトンを超えた?
ロリー・ギャラガーのギタープレイ
続いてリリースされたライヴ盤『ライヴ・イン・ヨーロッパ』(‘72)はセールス的にも大成功し、彼のアルバムがギャラガーの最初で最後のトップテンヒットとなった。このライヴ盤、ギャラガーの魅力はライヴでないと味わえないと思わせるほどの充実した内容だ。シカゴブルースをベースにしたハードなロックを中心に据えてはいるが、カントリーブルースにもスポットを当てるなど、楽しそうに演奏している様子が聴いてる側にも伝わってくる。特にフラットマンドリンをかき鳴らしながら歌う「ゴーイング・トゥ・マイ・ホームタウン」は名演!
このアルバムをリリースした後、「メロディ・メーカー」誌のギタリストの人気投票でギャラガーは1位を獲得している。この時の2位はエリック・クラプトン、3位がテン・イヤーズ・アフターの早弾きアルヴィン・リーで、当時のギャラガーのギタリストとしての人気がよく分かる。
キーボードを加えた
第2期ロリー・ギャラガー
『ブループリント』のサウンドはこれまでになく泥臭く、どちらかと言えばスワンプロックのテイストに近いのだが、おそらく多くのブリティッシュロッカーがそうであったように、ギャラガーもまたデレク&ドミノスやデラニー&ボニーといったアメリカ南部のグループに影響を受けていたのだろうと思う。日本のロックシーンも含めて、70年代初期はスワンプロックの全盛期であった。このアルバムには彼の代表曲となる「Walk On Hot Coals」や「Daughter Of The Everglades」が収録され、彼のソングライティングの巧みさが開花する時期でもあった。
本作『タトゥー』について
他にも彼が得意とするブルースロックはもちろん数多く収められているし、彼のソングライティグが光るジャジーな「They Don’t Make Them Like You Anymore」や、彼にしては珍しくハーモニックス奏法を使ったドラマチックなマイナーバラードの「A Million Miles Away」、アルバムの最後を飾る「Admit It」ではシュギー・オーティスを思わせるファンキーなナンバーなど、ギャラガーの才能が噴出した名曲&名演が詰まった作品になっている。
本作がリリースされた73年、日本でもギャラガーの人気は高く、多くのロック少年は彼が弾くストラトキャスターに憧れ、ストラトタイプの和製ギターが大いに売れた。そして、翌年には日本公演も実現するのだが、彼の絶頂期はここまでだったと思う。
ハードロックへと変貌
もし、ロリー・ギャラガーを聴いたことがないのであれば、彼の黄金期が収録された『ライヴ・イン・ヨーロッパ』『ブループリント』『タトゥー』のどれでもいいから聴いてみてください。きっと新しい発見があると思うよ♪
TEXT:河崎直人