暴走ロックンロールバンド、
モーターヘッドの全てが凝縮された
ライヴ盤『ノー・スリープ・ティル・
ハマースミス』

結成40周年を迎える今年、『FUJI ROCK FESTIVAL』に初参戦するモーターヘッド。彼らが80年にリリースしたこのライヴアルバム『ノー・スリープ・ティル・ハマースミス』には、ラウドでハイスピード、かつハイテンションのロックンロールを追求しながらハードコアの時代も、スラッシュメタルの時代も、グランジ/オルタナの時代も生きのびてきた彼らの魅力が凝縮されている。

結成40周年を記念する今年2015年にレミー・キルスター(Vo&Bu)率いるロック界最狂、いや、最凶、いやいや、最強のトリオ、モーターヘッドがリリースする22作目のアルバム『バッグ・マジック』を聴いてみたところ、これがもう! バラードやローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」のカバーという変化球を思わせる曲も収録されているにもかかわらず、どこをどう聴いてもモーターヘッド以外の何物でもないと言うか、トゥーマッチと言えるほどモーターヘッドらしさを顔面直撃!!って勢いでアピールするゴリゴリのロックンロールナンバーの数々に沸々と笑いが込み上げ、アルバムを聴いた後も笑いが止まらなくなってしまった。ああ、今日はなんだかいい日になりそうだ。
もっとも、アルバムごとにマイナーチェンジはがあるとはいえ、40年の長きにわたってラウドでハイスピード、かつハイテンションのロックンロールを追求してきたモーターヘッドのことだから、今回だってそういう作品になることは分かっていた。しかし、“極悪”と謳われたレミーも御歳69歳。今現在も精力的にライヴ活動を行なっているとはいえ、長年のロックンロールライフが祟って、健康状態もいいとは言えないらしい。いつまでこれが続けられるか?! そう心配しているファンも少なくないはずだ。だからこそ、今年2月、日本列島を駆け抜けた「モーターヘッド、フジロック・フェスティバル初参戦!」というニュースは他のどのアーティストのものよりも歓迎されたはず。
『フジロック』初日のヘッドライナーを務めるフー・ファイターズのデイヴ・グロールは自分のメタルプロジェクト、プロボットやフー・ファイターズのMVにレミーを迎えるほどの大ファンなんだから、自分たちの直前にモーターヘッドが演奏すると聞き、一気に気持ちがアガッたにちがいない。『バッド・マジック』を聴く限り、バンドは絶好調。再びツアーを続けているということは、レミーの体調も以前よりはいいのだろう。 『フジロック』でもきっと結成40周年に相応しいパフォーマンスを観せてくれるにちがいない。
気付けば、4日後に迫ったモーターヘッドのライヴに備え、引っ張り出してきたアルバムがこれ。かつて『極悪ライヴ』と邦題がつけられていたこのライヴアルバムは、前年(80年)リリースの『エース・オブ・スペイズ』と並ぶモーターヘッドの代表作中の代表作だ。バンドのエンジンの回転数がいきなりレッドゾーンに振り切るオープニングの「エース・オブ・スペーズ」からラストを締め括るヤードバーズの「トレイン・ケプト・ア・ローリン」のカバーまで、80年と81年のツアーから全14曲を収録したこのアルバム。野蛮そのものなレミーのダミ声をはじめ、多くのロックファンがモーターヘッドと聴いた時にイメージする全てが凝縮されている。
だからこそ、多くのファンがライヴ盤にもかかわらず、彼らの代表作に挙げるわけだけれど、リリースされるや否や、全英No.1ヒットになったこともしっかりと記憶しておきたい。つまり、単に彼らのライヴを記録した作品ということだけに止まらず、79年発表の2ndアルバム『オーヴァーキル』で火が付いた人気が『ボマー』(79年)、『エース・オブ・スペーズ』のリリーを経て、頂点に達したことを物語るという意味でも後世に伝えられなきゃいけない作品だということだ。
聴き返すたび、高校生の頃、たまたまラジオでかかった「エース・オブ・スペーズ」を聴いた時の衝撃が蘇る。翌日、学校に行ったら、当時、筆者が組んでいたパンクバンドでギターを弾いていた同級生が「曲を作ってきた」とカセットテープ(!)を持ってきたので、早速聴いてみたら、「エース・オブ・スペーズ」のパクリとしか思えない曲だったから「おまえも聴いたの?!」「聴いた!」「シビれた」「ああ、シビれた」となり、早速、僕は歌詞を付け、その曲は僕らのバンドのレパートリーになった。ちなみに当時はまだ、パンクとメタルが敵対していた時代。パンクバンドにもかかわらず、ギターがメタルファンだった筆者のバンドは、実は誰よりも早くクロスオーバーを実践していたんじゃないかと今さらのように思っている(ウソ)。
そんな与太話はさておき、パンクファンからもメタルファンからも支持されたモーターヘッドこそ、元祖ラウドロックバンドの称号が相応しいバンドはいないはず。ハードコアの時代も、スラッシュメタルの時代も、グランジ/オルタナの時代も生き延びてきた永久不滅の暴走ロックンロールは、ロックファンならどれだけリスペクトしたってしすぎることはないと思う。

著者:山口智男

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着