ヴァン・ヘイレンの黄金時代の終焉を
飾った名盤『1984』

 ヴァン・ヘイレンの通算6作目アルバム『1984』は、デビューアルバム『Van Halen(邦題:炎の導火線)』と並び、誰もが認めるバンドの代表作だ。それは同時に、ヴァン・ヘイレンという膨大な熱量を内包するモンスターバンドの、ひとつの終焉を飾る作品でもあった。

 エディ(Gu)とアレックス(Dr)のヴァン・ヘイレン兄弟、マイケル・アンソニー(Ba)、そしてデイヴ・リー・ロス(Vo)がヴァン・ヘイレンとして活動を開始したのは1974年。1978年のデビューアルバム『VAN HALEN(邦題:炎の導火線)』では、エディ・ヴァン・ヘイレンの火花を散らしたような革新的なプレイが話題に。その後のHR/HMに計り知れないほどの影響与えた。バンドはアルバム毎にチャートポジションを押し上げ、アメリカを代表するモンスターバンドへと変貌を遂げていった。
 バンドの結成からちょうど10年目に届けられた、通算6枚目アルバム『1984』は、先行リリースされたシングル「Jump」のヒットに牽引されるかたちで、たちまちチャートを駆け登り、全米アルバムチャートで5週間に渡って2位のポジションをキープ(その時首位に鎮座していたのは、エディがギターソロを弾いた「Beat It」を収録するマイケル・ジャクソンの『Thriller』)。MTV全盛という時代の追い風もあり、アルバムは1999年までに米国のみで1000万枚を売り、ダイアモンド・ディスクに認定されている。
 だが、順風満帆に見える裏で、バンド内には修復不可能な亀裂が生じていた。常に音楽的探求心を追求し、シンセサイザーの本格的導入を試みようというエディと、「我々はギターを武器として闘っていくべき」と主張するデイヴが対立。それまでも鍵盤楽器やそれを彷彿させるギターエフェクトは楽曲の一部で導入されてきたが、ここまでポップ色を強く感じさせるサウンドは初めてだった。デイヴは2年以上に渡り「Jump」の歌詞を書くことを拒否。この対立は後々まで尾を引き、デイヴは1985年にソロアルバム『CRAZY FROM THE HEAT』をリリースし、脱退を発表。“音楽的価値観の相違”と言えばそうなのだが、バンド史上最大のヒット曲がバンドの内部分裂を促したのだから皮肉なものだ。
 結果的にオリジナル・ラインナップとして最後のアルバムとなった『1984』だが、リードトラック「Jump」のイメージのみで聴くと、大きく裏切られるだろう。「Jump」はバンドの代表曲でありながら、ヴァン・ヘイレンとしてはかなり例外的な曲で、エディの実験精神が活かされた曲だからだ。オーバーハイムのシンセサイザーで弾かれる重厚かつ華麗なオープニングインスト「1984」。このわずか1分ほどのイントロを経ての「Jump」への流れは、新たなヴァン・ヘイレンを印象付ける目論見があったのだろう。もうひとつのシンセ曲「I'll Wait」は、ヴァン・ヘイレンにしては珍しいシリアスなトーンの曲。AOR風の曲調に合わせてか、エディにしては珍しく抑え目なソロが聴ける。「Panama」は、バンドが本来持つハードロック色とキャッチーさが前面に押し出された曲。アレックス・ヴァン・ヘイレンのドラムフレーズで幕を開けるシャッフル調の「Hot For Teacher」は、アルバム随一の疾走感で攻める。
 これらシングル曲があまりにも強烈なため、「Top Jimmy」、「Drop Dead Legs」、「Girl Gone Bad」「House of Pain」の4曲はシングルで言うところのB面曲的な印象を持たれがちだが、それは明らかに過小評価だ。どれも一聴してヴァン・ヘイレンと分かる独自のグルーブ、その上で蠢く目紛しくもオーガニックな曲展開、引き出しの多さに舌を巻く多様なギターフレーズは、それまで培ってきたエディの音楽的実験の結実したものといえる。フィラーなど1曲もない。全9曲に凄みと洗練が備わっているのだ。
 デイヴ脱退後、バンドは後任にサミー・ヘイガーを迎え、それまでのパーティーロックバンドのイメージを一掃を試みるが、多くのファンは“デイヴ時代とは別物”と捉え、“ヴァン・ヘイレン=デイヴ”と復帰を求めた。その望みが届いたのは2007年。2012年には全て新曲によるアルバム『A Different Kind of Truth』をリリース。デイヴ復帰作としては『1984』以来、実に28年ぶりとなるこのアルバムを引っ提げて行なわれたワールドツアーでは日本にもやって来た。デイヴを含むラインナップとしては、なんと34年振りの来日公演だ。その様子は先頃リリースとなったライヴアルバム『Tokyo Dome: Live In Concert』で聴くことができる。
 来る7月から、3カ月に渡る大規模な北米ツアーを行なうことが発表された。現在も彼らの一挙一動に注目が集まり、アグレッシヴに活動を続けられるのは、『1984』というアルバムの存在が大きいように思う。その犠牲となったものはあまりにも大きかったが、まわりまわって今の彼らに行き着いたのであれば、その価値はあったのだろう。

著者:金澤隆志

OKMusic編集部

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