70年代末のニューヨークの
音楽シーンをリードする存在だった
テレヴィジョンを率いたギタリスト、
トム・ヴァーライン

『Marquee Moon』(’77) 、『Adventure』(’78)
短命ながら、70年代末のロックシーンに
刻み込まれたテレヴィジョンの
ギターサウンド
『マーキー・ムーン』は1977年、エレクトラレコードから発売された。レコーディングは前年から行なわれていたが、ヴァーラインは納得できるまで執拗にリハーサルを繰り返すという人で、録音作業に辿り着くまで膨大な時間をかけたと言われている。しかも、1974年末に始まったそのレコーディングセッションの最初のプロデュースを担当したブライアン・イーノのサウンドメイクにヴァーラインは難色を示し、タッグは決裂する。今となってはイーノによるテレヴィジョンの録音がどのようなものだったのか。同じニューヨークのインディシーンからデビューしたトーキング・ヘッズがイーノのプロデュースでニューウェイブという枠を超えたバンドへと飛躍しただけに、興味がそそられるのだが、ヴァーラインはレーベルが推す人材を使うよりも、あくまで自分主導で録音したいと考えるタイプだったようだ。いかにも繊細でエキセントリックだったという彼らしいエピソードである。結局、サウンドエンジニアにアンディ・ジョーンズを招き、プロデュースはヴァーライン自身が行なった。
アンディ・ジョーンズという人はプロデューサーとしても超一流の人で、ハンブル・パイやロッド・スチュワート、ヴァン・ヘイレンをはじめ、紙面が尽きてしまうのではないかと思われる膨大なアーティストのアルバム制作を行なうほか、エンジニアとしてもローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリン、スティーブ・ミラー、エリック・クラプトン…と、有名どころのアルバムに関わっている。よく新人バンドのテレヴィジョンを手掛ける気になったものだ。
翌年、レコーディングスタジオをアトランティック所有のA&R Studiosから地元ニューヨクのRecord Plantに移して、翌年リリースされたのがセカンド作『アドヴェンチャー』である。こちらもプロデュースとエンジニアにジョン・ヤンセンを招き、ヴァーラインは共同プロデュースの体制を取っている。ヴァーラインはあまりライヴをやりたがらなかったと聞いたこともあるのだが、楽曲が溜まっていて、アルバム制作の意欲が高まっていたからなのかどうか、『マーキー・ムーン』リリース後、プロモーションを兼ねてのツアーに出ることもなく、彼らはスタジオに入ることを選択したわけだ。こちらはファースト作に比べると、幾分曲想やアルバム全体にある空気感に刺々しさが後退し、曲によってはポップなギターアルバムと感じられるところもある。オープニングの「グローリー」やライヴの定番曲「デイズ」「フォックスホール」、カッコ良いリフが決まる「エイント・ザット・ナッシン」「ザ・ドリームズ・ドリーム」など、よく練られた曲が並び、実はこのセカンド作のほうが好きというリスナーも少なくない。