恍惚感に包まれるロキシー・ミュージ
ック最後のオリジナルアルバム『アヴ
ァロン』は中毒性の高い名盤!

毎年、夏が訪れるたびに聴きたくなるアルバムがロキシー・ミュージックの『アヴァロン』である。美しい海がどこまでも広がる楽園に連れていってくれるような完成度の高いこのアルバムを最後に、ロキシー・ミュージックは解散するが2001年に再結成を果たし、不定期に活動を行ない、2010年に『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演したのは記憶に新しい。初期のグラムロック時代を抜きにしては彼らのことは語れないだろうし、飛び道具のような先鋭的キーボーディスト、ブライアン・イーノが在籍していた’72年の1stアルバム『ロキシー・ミュージック』や翌年の2ndアルバム『フォー・ユア・プレジャー』を名盤に挙げる人も多いと思う。再結成した今も最終作となっている『アヴァロン』はバンドのアルバムというよりは、ブライアン・フェリーのソロに近い。が、自分にとって洋楽ベスト3のアルバムを挙げろと言われたら、間違いなく、このアルバムを入れる。特定の曲がいいというより、作品全体が1曲のような世界観で統一されていて、何度リピートして聴いても飽きることのない極上の心地良さに貫かれているからだ。

異色なグラムロックバンドだったロキシ

1971年に結成されたロキシー・ミュージックは翌年にシングル「ヴァージニア・プレイン」、1stアルバム『ロキシー・ミュージック』をリリースし、英国のヒットチャートでベスト10内にランクインするほど注目を集める。その派手なヴィジュアル(主にフェリーとイーノ)と音楽から、T.レックス、デヴィッド・ボウイとともに“グラムロックムーヴメント”を作ったバンドとして紹介されることが多かったが、アルバムを聴くとグラムのひとことでは言い表せないほど、いろいろな要素がおもちゃ箱のように詰まりまくっていて実験的である。実際、ブライアン・フェリーはロキシー結成前にキング・クリムゾンのヴォーカルオーディションを受けた経験があり、1stアルバムのプロデュースもクリムゾンのピート・シンフィールドが手がけている。プログレッシブロックの要素があったかと思えば、カントリーも取り入れられているし、ブライアン・フェリーのヴォーカルスタイルも独特の“ぎくしゃく感”があって、とにかく全てが斬新。映画音楽のサントラを聴いているようなバラエティー感も持ち合わせている。バンド名が1950年代の英国の映画館チェーン“ロキシー”に由来していることと関係あるのか分からないけれど、いろいろな意味でロキシー・ミュージックが衝撃的な存在であったことは間違いないだろう。バンドはブライアン・イーノの脱退を機にモダン・ヨーロピアン・サウンドへと移行し、75年に解散、78年に再始動と複雑な経歴を辿るため、第1期、第2期などの分類の仕方がされたりもしているが、そのあたりのヒストリーは各所で詳しく語られているので置いておいて、ブライアン・フェリーのヴォーカルスタイルや美意識、そのサウンドスタイルはのちのニューウェイヴ、ニューロマンティックシーンに大きな影響をもたらした。感銘を受けたアーティストにはデュラン・デュラン、JAPAN、ウルトラヴォックスなどの名前が挙げられているが、アメリカのカーズあたりも影響を受けているのではないだろうか。当時のニューウェイヴ系ミュージシャンでT.レックス、デヴィッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックを通っていない人のほうが珍しいのではないかと思う。
ブライアン・フェリーのソロライヴを今はなき新宿厚生年金会館で観たことも良き思い出だが、2001年にブライアン・フェリー、フィル・マンザネラ(Gu)、アンディ・マッケイ(Sax)、ポール・トンプソン(Ds)のオリジナルメンバーが揃った来日公演を国際フォーラムで観たことは忘れられない。客層からして通常のロックコンサートの雰囲気とは趣を異にしていて、多くの男性/女性が紳士/淑女のごとく正装をしていたのである。

そんな雰囲気の中、ステージに表れたロキシー・ミュージックはモダンにして自由であり、なんだか豪華客船の中でショーを観ているような気持ちになった。かと言って、彼らが気取っているというわけではなく、ダンディズムの象徴のように言われているブライアン・フェリーは、熱が入ってくるに従って髪の毛も服装もなりふりかまわなくなってくる感じが魅力的なのである。音楽性も含めてひとことでは言えない奥の深さがあるのがロキシー・ミュージックなのかもしれない。

アルバム『アヴァロン』

1982年にリリースされ、ロキシー・ミュージック最後のオリジナルアルバムにして、過去最高のヒット(英国のチャートでは1位を獲得)を記録した作品。“アヴァロン”とはアーサー王を始めとする英雄たちが死後に向かったと言われる西方海上の極楽島のことで、ケルト伝説に由来している。ロキシー・ミュージックのアルバムのジャケットには必ず美女が登場し、その都度、話題になっていたが、本作に映っている後ろ姿の騎士をイメージさせるモデルも実はフェリーの愛する女性、ルーシー・ヘルモアである。レコーディングを行なったのは当時、多くの有名ミュージシャンが訪れていたバハマ諸島ナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで、ミックスを手がけたのは多くのメガヒット作を生み出したボブ・クリアマウンテン。この頃のロキシー・ミュージックは、フィル・マンザネラ、アンディ・マッケイの3人のみで、スタジオミュージシャンを迎えてレコーディングが行なわれたと言われているが、何と言ってもこのアルバムの素晴らしさはスケール感と繊細さを兼ね備えた練りに練られたサウンドワークと、フェリーのヴォーカルが最も美しい地点で溶け合っていることだと思う。波間をたゆたうようなサウンドと珠玉のメロディーに夢心地になる「MORE THAN THIS」から、すでに“アヴァロン”へと連れていかれる。タイトル曲「AVALON」はドラム、ベース、細やかなギターのカッティングが緻密で美しく、女性コーラスも効果的。フェリーの声の艶を見事に活かしている楽曲でムダな音が何ひとつない芸術品だ。ここから続くインタールード的ポジションの「INDIA」も計算し尽くされたようなサウンドスケープを描き出す。リズムを強調した「THE MAIN THING」はニューウェイブ、テクノの色合いが強く、「TAKE A CHANCE WITH ME」はフェリー節全開。リリースされ、30年以上の月日が経過した今も、このアルバムの音の広がりと浮遊感、現実からトリップさせてくれる恍惚感に魅了され続けている。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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