世界中に2トーンブームを巻き起こし
たスペシャルズのデビュー作『スペシ
ャルズ』

78年のセックス・ピストルズの解散を機に、パンクロッカーたちはその後の身の振り方を模索していた。それは、巨大レコード産業に絡め取られないために生まれたパンクが、気が付くと巨大レコード産業の中心になっていたからである。要するにパンクスピリットというものは、それがステイタスとなった時点でパンクではなくなってしまう宿命にあった。そんな時に登場してきたのがスカ・リバイバルであった。ポストパンクの最重要ミュージシャン、エルビス・コステロがプロデュースしたスペシャルズのデビュー作は大きな注目を浴び、以降のロックに大きな影響を及ぼすことになる。

ジャマイカの移民が多いイギリスの風土

78年にデビューしたポリスはレゲエをベースにしたサウンドと卓越した演奏技術で、あっと言う間に人気グループとなったが、ジャマイカ産のレゲエを取り入れたのは偶然ではない。イギリスにはジャマイカからの移民が多く、レゲエ自体がよく知られた音楽であったからである。ジャマイカの移民たちは貧困層が多く存在し、同じく貧困にあえぐ労働階級の白人たちとは言わば同志であった。クラッシュも進んでレゲエをカバーしていたし、パンクロックとレゲエは精神的な部分で繋がりのある音楽だったといえるかもしれない。
パンクが解体し、ポストパンク時代に人気を呼んだのが、ワールドミュージックだろう、82年にはピーター・ガブリエルが手がけたWOMAD(1)で世界的な知名度となるが、レゲエやカリプソ、カッワーリーなどと並んでスカにも大きな注目が集まった。そのワールドミュージック・ブームの前に、スカを現代的な感覚にアレンジし評判となったのがスペシャルズである。スカはレゲエの誕生する前にジャマイカで生まれたポピュラー音楽で、もちろんイギリスでもよく知られてはいたが、どちらかと言えば古い音楽で、リズムはゆるかった。しかし、スペシャルズはそのスカにパンクの破壊力をミックスすることで、80年代を間近に控えた時代に若者たちにも十分アピールする音楽を作り上げたのである。

スペシャルズ結成とスカ・リバイバル

1977年、スペシャルズはキーボード奏者のジェリー・ダマーズを中心にイギリスのコヴェントリーで結成された。当初は7人組で白人黒人の混合グループである。彼らの音楽は60年代にジャマイカで流行したスカに、パンクのスピード感や破壊力を加えた独自のスタイルで、スペシャルズ自身のレーベル「2トーン」から本作『スペシャルズ』をエルビス・コステロのプロデュースで79年にリリースし、熱狂的に迎えられた。
同時期に活動していたスカのグループには、スペシャルズよりポップなマッドネスや女性ヴォーカルを前面に押し出したセレクター、硬派のザ・ビートなどがいた。これらのグループが70年代末から80年代初頭にかけて一世を風靡したのがスカ・リバイバルと呼ばれるムーブメントである。中でも、スペシャルズ、セレクター、ザ・ビートらが在籍したのが2トーンレコードであったことから、スカ・リバイバルを2トーンと呼ぶこともあり、彼らのサウンドは国境を超え世界中に広がっていった。
スカ・リバイバルは、その後のロックの方向性を決定するぐらい大きなムーブメントとなり、イギリス勢はUB40やアスワドのようにブリティッシュ・レゲエで活躍するものや、スリッツ、ポップ・グループなどのようにダブ(2)を取り入れるものなど、大きな広がりをみせていく。80年代中期以降90年代まで人気があったUKソウルやアシッド・ジャズ(3)なども、スカ・リバイバルの方法論に影響された音楽であり、いかにスペシャルズが大きな影響力をもっていたかが分かる。
アメリカでも80年代半ばにフィッシュボーンやジ・アンタッチャブルズなど、スカ・リバイバルに影響されたグループが登場するが、どちらのグループも当時としては珍しい黒人のロックグループであり、スペシャルズやセレクターが白黒混合バンドであることを考えると、スカ・リバイバルはロックが人種の壁を超えるきっかけの一つとなったのかもしれない。

本作『スペシャルズ』について

本作の魅力は何と言ってもビートにある。スカの基本である2拍目と4拍目のアクセント(これはレゲエも同じだ)が癖になるというか、中毒性のあるリズムなだけにはまるとなかなか抜け出せないのである。ただ、彼らはスカを基本にしながらも、歌っている内容は貧困や失業といったイギリスが抱えていた当時の世相を反映した辛辣なものであり、だからこそ苦しんでいる多くの若者に受けたのだろう。ダンス音楽としての要素と反体制の要素が絡み合って、リスナーに強烈なインパクトを与えたのだと思う。
本作の魅力のひとつで、ジャマイカ産のオリジナル・スカにないものはギターソロである。ロディ・ラディエイションのユーモラスでセンスの良いリードギターがスパイス的な役割を果たしていて、これが良い。また、ゲストにはプリテンダーズのクリッシー・ハインド、ジャマイカ出身のトロンボーン奏者でスペシャルズの音楽指導をやっていたリコ・ロドリゲス、ボブ・マーリーのバックを務めたこともあるトランペット奏者、ディック・カッテルの3人が参加している。プロデュースはスペシャルズの演奏を気に入って、自分からプロデュースを買って出たエルビス・コステロである。
アルバムに収録されているのは全部で14曲、捨て曲なしの名曲揃いだ。パンク的な香りはもちろん、ストーンズっぽいところがあるのが面白い。ローリングストーン誌の「80年代のアルバム100選」では68位にランクインしている。本作は79年リリースなのに何故80年代に入っているかと言えば、アメリカでリリースされたのが80年であったからという理由である。
そんなスペシャルズが来日する。3月21日から4日間、大阪、名古屋、東京で公演する。ジェリー・ダマーズが来ないのは残念だが、リード・ヴォーカリストでスペシャルズ解散後に「ファン・ボーイ・スリー」や「カラー・フィールド」で大活躍したテリー・ホールはちゃんと参加するので、興味のある人はぜひ観に行ってください。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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