サザンロックはオールマン・
ブラザーズ・バンドの
『ブラザーズ・アンド・シスターズ』
で完成した

『Brothers And Sisters』(’73)/The Allman Brothers Band
サザンロックの定義付けは
難しいけれど楽しい
ツインギター、ツインドラムのヒント
デッドのグループ編成にインスパイアされると同時にデュアンの頭にあったのは、クリームのようなハードな音作りであった。特にジンジャー・ベイカーのポリリズムを駆使したような複雑なドラミングをアメリカで叩けるロックミュージシャンは当時いなかったから、ツインドラムにせざるを得なかったという事情があったのかもしれない。
ツインリードに関しては当時誰も真似できなかったデュアンの超絶スライドを前面に押し出したかったため、普通のギターを弾くプレーヤーが必要であった。そんなことから自分と似たスタイルを持つディッキー・ベッツに声をかけ、オールマン・ブラザーズ・バンドは結成された。
『ブラザーズ・アンド・シスターズ』
以前のABB
以前、このコーナーでも取り上げた『フィルモア・イースト・ライヴ』(‘71)はロック史上に燦然と輝くライヴ盤で、彼らの最高の瞬間が収録されている。続く『イート・ア・ピーチ』(’72)のレコーディング中にデュアンが亡くなり、前作のライヴの残り(“残り”と言うと語弊がある。時間的に収録できなかっただけで演奏は名演揃い)と残されたメンバーによるスタジオ録音が収録されたが、このアルバムに収められた「ブルースカイ」はデュアンとディッキーのツインリードが聴けるカントリー風のナンバーで、ABBの新たな方向性を示唆するものであった。デュアン自身、ブルースだけでなくディッキーが主導するカントリー系サウンドを好んで取り上げており、グレッグもブルース一辺倒に思われがちだが、ここでは「メリッサ」のようなカントリーっぽい曲を書き、ディッキーに歌わせることなく自身のヴォーカルで渋く披露している。ブルースとカントリーをどちらも取り上げるあたりに、オールマン兄弟の南部人としてのスタンスがよく表れていると思う。
本作『ブラザーズ・アンド・
シスターズ』について
ところが、73年に本作がリリースされると、彼ら初の全米チャート1位となった。シングルカットされた「ランブリンマン」はアメリカンロックを代表する名曲として現在まで多くの人に愛されるナンバーとなった(全米チャート2位まで上昇)。ABBをリアルタイムで聴いている者からすると、最初はデュアンとベリーのいないオールマンなんて…と、本作を聴く直前までマイナスイメージを持っていた。要するに新生ABBのダメさを確認するために聴き始めるわけである。
ところが、デュアンを彷彿させるディッキーのスライドと、新加入のチャック・リーヴェルによる超絶ピアノワークが聴ける1曲目の「むなしい言葉(原題:Wasted Words)」だけで、すっかりノックアウトされてしまうのだ。次の「ランブリンマン」で立ち上がれなくなった…。カッコ良い、カッコ良すぎる。待てよ、これツインリードじゃないかと思いつつジャケットを手に取ると、レス・デューデックという見知らぬギタリストの名前があった。そう、すでにデュアンのフォロワーが南部には登場していたのだ。彼はディッキーと息のあった指弾きを効かせたかと思ったら、後半はデュアンそっくりのスライドまで弾いている。
余談だが、デューデックのソロ作品は素晴らしい。特に1枚目の『レス・デューデック』(‘76)と2枚目の『セイ・ノー・モア』(’77)は、結成前のトトのメンバーを迎え、センスの良いサザンロックを聴かせるのだが、やはりデュアン直系のデューデックのギターが光っている。80年にリリースしたグループの『デューデック・フィニガン・クルーガー・バンド』(‘80)も最高だ。デュアンのフォロワーとしては、デレク・トラックスが登場するまではデューデックが最高だったのではないだろうか。
話を元に戻すと、3曲目の「カム・アンド・ゴー・ブルース」もオールマンらしいナンバーで、リーヴェルのピアノがよく歌っている。この曲の後半ではディッキーのゆったり目のギターがレイドバック感を醸し出しており、デュアンのいた頃には出せなかったこの味が新生ABBの大きな特徴でもある。本作で聴けるレイドバック感覚こそがサザンロックの魅力であり、本作以後に登場してくるサザンロックグループに与えた影響は大きい。というか、サザンロックは間違いなく本作のサウンドで確立されたのである。
ファンキーな「サウスバウンド」やインストの名曲「ジェシカ」は、「デュアンのやりたかったことは、きっとこういうことだったに違いない!」と思うほどサザンロックの真髄とも言える文句なしのナンバーが続く。この2曲はリーヴェルのピアノを聴かせたいために作ったのかと勘ぐりたくなるくらい素晴らしい出来である。数多あるロックのピアノ演奏でもベストに数えられるものだ。のちにリーヴェルは数多くのセッションに参加し、ザ・ローリング・ストーンズのキーボードプレーヤーとして名を馳せるが、彼の最高のプレイはと言えば本作に尽きるのではないだろうか。
LP時代、A面の最後にあたる4曲目「ジェリー・ジェリー」とB面の最後にあたる7曲目「ポニー・ボーイ」は、グレッグ得意のブルースナンバーを配置しているのも嬉しい。どちらも小品だけれどABBにはブルースが似合うのだ。
そんなわけで、彼らは見事にABBを蘇らせた…ただ蘇らせただけでなく、ブルース色の濃い『フィルモア・イースト・ライヴ』と、カントリーっぽいレイドバック感が見られる本作『ブラザーズ・アンド・シスターズ』でサザンロックを完成させたことは、ロック界にとって大きな成果となった。
本作の後、レーナード・スキナードをはじめ、マーシャル・タッカー・バンド、ウェット・ウィリー、チャーリー・ダニエルズ・バンド、ブラック・オーク・アーカンソー、アウトロウズ、38スペシャル、モリー・ハチェットなどが続々と登場し、サザンロック旋風が世界的に巻き起こる。日本でもめんたんぴんやスティッキー・スウェルなどの優れたサザンロックグループが、80年代前後にテクノポップが現れるまでライヴハウスで活躍するのである。もし、オールマンを聴いたことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてほしい。きっと新しい発見ができると思います。
TEXT:河崎直人