大ヒット曲を次々に生み出した
ブレッド絶頂期のアルバム
『ギター・マン』

『Guitar Man』(’72)/Bread
次々にリリースされる名曲
そんな時に出会ったのがブレッドの「二人の架け橋(原題:Make it with You)」という曲だった。フォーキーな美しいメロディーとやさしい声の男性ヴォーカルに惹かれ、毎日のように聴いていたのだが、気付けばその後も「イフ」(‘71)、「愛のわかれ道(原題:Baby I’m-a Want You)」(’71)、「涙の想い出(原題:Everything I Own)」(‘72)、「ダイアリー」(’72)、「ギター・マン」(‘72)、「スウィート・サレンダー」(’72)と、立て続けに名曲をリリースしていたのだ。
ところが時代はハードロックに突入、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルが登場すると、ブレッドのやさしいサウンドでは満足できなくなっていたのだ。カーペンターズの時にも書いたが、若者というのは純粋なやさしさよりも不良っぽいノイズに惹かれるもので、良い曲であるのは分かっているのだが、「これはロックじゃない!」とポップ的なものとか歌謡曲的なサウンドを認めないという損な立ち回りをしてしまい、後悔することになるのである。結局、僕も中学生1、2年の時にはあんなに好きだったブレッドを遠ざけてしまい、思春期を脱する(明確にいつかは線引きできないが…)まで遠い存在となるわけだが、ブレッドの素晴らしい音楽は50歳以上の洋楽好きの人なら誰もが知っているのではないだろうか。まさに職人技である。
地味だけれど超スーパーグループ
グループとしてライヴ活動する時にドラムがいないと困るので、デビューアルバム『灰色の朝(原題:Bread)』(‘69)ではジム・ゴードンとロン・エドガーが参加している。当初、ピアノも弾けるゴードンをメンバーとして迎える段取りで話を進めていたが、結局はエリック・クラプトンが結成しようとしていた新グループ(デレク&ザ・ドミノズ)に引き抜かれてしまう。デビュー翌年にスタジオミュージシャンとして著名なマイク・ボッツが加入、4人組として2作目『On The Waters』(’70)をリリースする。ソングライティングはゲイツとロイヤー&グリフィンの2パターンで行なわれている。このアルバムに全米1位を獲得した「二人の架け橋」が収められているのだが、この曲はなぜかゲイツ(リードヴォーカル、コーラス、ギター、ベース、ストリングスなど)とボッツ(ドラム)のふたりだけで収録されている。
グループはゲイツとグリフィンの両トップで衝突することもあったが、大ヒット曲「イフ」を収録した3枚目の『神の糧(原題:Manna)』(‘71)をリリース、順調にキャリアを積み重ねていた。しかし、グリフィンと名コンビだったロイヤーがシングルヒットを生み出せばいいというレコード会社の方針に疑問を感じ、またゲイツとの確執もあってグループを脱退する。ただ、ゲイツにしてみれば、これまでのヒット曲は全てゲイツの手になるものであり、演奏もひとりでできるだけにグループの運営に不安はなかったようだ。
グループには新たにキーボード、ベース、ギター、ハーモニカを弾きこなすラリー・ネクテルが参加し、最高の布陣となる。ネクテルはサイモン&ガーファンクルの名曲「明日に架ける橋(原題:Bridge Over Troubled Water)」(‘70)の印象的なピアノを弾いており、伝説のスタジオミュージシャングループ、レッキング・クルーの一員としても知られる名プレーヤーだ。彼が参加した4枚目のアルバム『愛のわかれ道』(‘72)は全米チャートで3位となり、他に「涙の想い出」「ダイアリー」のヒットも生まれた。このアルバムが一番好きというブレッドファンは多い。
本作『ギター・マン』について
ブレッドの解散と再結成
このふたりの優れたソングライターは、ソロ作でもキラリと光る作品をリリースしている。76年にはエレクトラのジャック・ホルツマンの要請で、ブレッドのリユニオンが実現する。1枚だけであったが6作目となる『愛のかけら(原題:Lost Without Your Love)』(‘77)をリリース、名曲揃いのこのラストアルバムが彼らの最高傑作となった。本当はこのアルバムを取り上げたかったのだが、現在は単体では入手困難なので諦めた次第…。
TEXT:河崎直人