CSN&Yの『デジャ・ヴ』は
70sアメリカンロックの進むべき道を
提示した圧倒的な名盤

『Déjà Vu』(’70)/Crosby, Stills, Nash & Young

『Déjà Vu』(’70)/Crosby, Stills, Nash & Young

60年代末、アメリカ西海岸から登場し若者たちから大きな支持を集めたクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(以下、CSN&Y)。彼らは、50sのフォークリバイバルやロックンロールの黎明期を経て『ウッドストック』へとつながるアメリカ文化の遺伝子を後世に残した偉大なグループである。今回紹介する『デジャ・ヴ』は70sアメリカンロックを代表する名盤というだけでなく、ウッドストック世代の思想や文化的な側面までが閉じ込められたマイルストーンだ。確実に後世にまで残る名作だろう。

短命なようでいて
長い付き合いのグループ

CSN&Yは前年から活動を始めていたクロスビー・スティルス&ナッシュにニール・ヤングが加わったグループだ。CS&Nについては、以前この洋楽名盤列伝コーナーで片山明氏による『クロスビー・スティルス&ナッシュ』の秀逸なレヴューが掲載(2015年2月20日付け)されているので、そちらをご覧いただきたい。
■『Crosby, Stills & Nash』/CS&N
https://okmusic.jp/news/68210/
CSN&Y自体の活動は、69年から71年にかけての2年足らずで一旦は終わりを迎える。ライヴアルバム『4ウェイ・ストリート』がリリースされた71年の春には、すでにCSN&Yとしてステージに立つことはなかった。スティーブ・スティルスはマナサスを結成、ニール・ヤングもソロ活動に専念している。クロスビーとナッシュはこの後もふたりで活動し、素晴らしいアルバムを数多く残している。彼ら4人のメンバーは折にふれ近づいたり離れたりを繰り返すが、どんな時でも彼らならではの素晴らしいコーラスは健在だ。

彼らはそれぞれソロアーティストとしても一流であるだけに、ひとりひとりが大きな個性を持っている。普通、あまりに個々が主張しすぎるとグループ活動に支障が生じるものだが、彼ら4人が集まった時にはその力が4倍かそれ以上になるというのが大きな強みである。特にヴォーカルについては、全員がハーモニーを何より大切にしているところがCSN&Yというグループの最大の魅力なのだ。

スティーブ・スティルスと
ニール・ヤングの不思議な関係

そもそもスティルスとヤングはふたりともバッファロー・スプリング・フィールドに在籍していたのだが、音楽性の違いから喧嘩が絶えず、結局グループは解散を余儀なくされている。ところが、スティルスは音楽的にはヤングを高く買っており、CS&Nでデビュー後、グループを強化するためにヤングの参加を快く迎えたのはスティルスのほうなのだ。ヤングも期待に応えたわけだが、一緒にやってみるとやはり喧嘩は絶えず、今回もうまくはいかなかった。

ただ、75年にスティルスのソロライヴになぜかヤングが参加し、翌年にはスティルス・ヤング・バンド名義でアルバム『太陽への旅路(原題:Long May You Run)』をリリースしている。このバンドでツアーも行なわれたものの、やはり衝突しツアー途中でヤングは抜けてしまっている。喧嘩別れは、これで3回目である。その後、CSN&Y名義での3枚目となる『アメリカン・ドリーム』(‘88)をリリースしているが、この時はクロスビーのドラッグ中毒が問題であったためにスティルスとヤングの間に大きな衝突は起こっていない。それにしても、ひっついたり離れたりを何度も繰り返す彼らふたりが不思議な関係であることは間違いない。

天才ニール・ヤング

ニール・ヤングは間違いなく天才だ。ザ・バンド(メンバー5人のうち4人)、ジョニ・ミッチェル、ゴードン・ライトフットら、カナダ出身の優れたアーティストは少なくないが、中でもヤングのアーティストとしての才能は抜きん出ており、60年代から2019年の現在まで、その才能は枯れることなく輝き続けている。アメリカのポピュラー音楽のアーティストで彼に並ぶ存在は、ボブ・ディランぐらいしかいないのではないかと思う。

ヤングがこれまでにリリースしたアルバムは50枚以上で、さまざまな音楽的なチャレンジを行なってきた。ロック史上に残る名盤の数は多く、パンク、ヘヴィメタ、フォーク、グランジ、アバンギャルド、カントリー、ソウルなどなど、彼が影響を与えたアーティストはジャンルを問わず数多い。特にカート・コバーン(ニルヴァーナ)、エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、サーストン・ムーア(ソニック・ユース)など、90年代のオルタナティブ系ロックに与えた影響は絶大である。ダイナソーJr.に至っては、爆音でニール・ヤング風の音楽を演奏するという理由で結成されているのだ。黒人アーティストのリック・ジェームズもモータウンからデビューする前はニール・ヤングのコピーをしていたそうだ。

OKMusic編集部

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