スーパーグループとして知られる
ブラインド・フェイス唯一のアルバム
『スーパー・ジャイアンツ』

『Blind Faith』(’69)/Blind Faith
ザ・バンドの登場
そんなクラプトンに「クリームを解散しなくてはいけない」と思わせるほどのアルバムをリリースしたのがザ・バンド。彼らのデビューアルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(‘68)は、ブルース、カントリー、ロックンロール、フォークなどをミックスし、まったく新しいアメリカ音楽を生み出していた。彼らにはシングルヒットがあるわけでも、スター性があるわけでもなかったのだが、完璧とも言えるアルバムの完成度からクラプトンをはじめビートルズのジョージ・ハリスンやブルース・プロジェクトのアル・クーパーらに熱狂を持って迎えられるのだ。ザ・バンドに影響を受けたアーティストは多く、1970年前後は特にイギリスと日本が顕著かもしれない。日本では、はっぴいえんど、はちみつぱい、ディラン・セカンドなどがそうであるし、イギリスではブリンズリー・シュウォーツ、グリース・バンド、アンドウェラなど、パブロックのグループはほぼザ・バンドを目指していたと言っても過言ではない。
ザ・バンドの登場で土臭さやアメリカ的なサウンドに注目が集まり、70年初頭のスワンプロックやカントリーロックのブームへとつながったのは確かである。ただし、ザ・バンドの音楽はスワンプロックでもカントリーロックでもなく、独自のアメリカーナロックを追求している。彼らのアルバムはどれも驚異の完成度で、最終作の『アイランド』を除き、ほぼ完璧な仕上がりである。
クラプトンの方向転換
本作『スーパー・ジャイアンツ』
について
アルバム収録曲は全部で6曲、そのうち「Well All Right」(バディ・ホリー作。本作で唯一のカバー曲)と「Presence Of The Lord」(クラプトン作)の2曲がグレッチ抜きである。あとはウィンウッドの曲が3曲、ジンジャー・ベイカーの曲が1曲という構成で、ウィンウッド作の3曲はトラフィック・ミーツ・クリームといったテイスト。特にクラプトンのギターソロパートでは、ドラムがジンジャー・ベイカーだけにクリーム的な味わいがあって、それはそれで素晴らしい。
当時、クラプトンはまだヴォーカルに自信がなかったので、本作は全曲ウィンウッドが歌っているのだが、ウィンウッドはリードギターでも素晴らしいテクニックを披露しているし、キーボードはもちろん、ベースの腕前も文句なしである。これだけひとりが活躍すると、普通に考えればウィンウッドのワンマンバンド的な仕上がりになってもおかしくないのだが、クラプトンとベイカーの個性が強いだけにしっかりと存在を主張しているのはさすがだ。
収録されたナンバーはどれも良い曲ばかりだが、特に日本でシングルカットもされたクラプトンの「Presence Of The Lord」は名曲中の名曲である。この曲、ザ・バンドに影響されているのは明らかで、ウィンウッドのヴォーカル、ピアノ、クラプトンのギター、ベイカーのドラム(いつもの彼と違って少しおとなしい)、どれも名演である。間奏のリードギター部分はクリーム的な演奏で少し浮いているが悪くはない。
本作中、もっともよく知られたナンバーが「Can’t Find My Way Home」。これは本編のアコースティックバージョンよりも、クラプトンとウィンウッドのツインリードギターが味わえる6分近くに及ぶエレクトリックバージョン(デラックス盤に収録)のほうが出来は良いから、本編にはこちらを収録してほしかった。この曲は多くのアーティストがカバー(ウィンウッドのセルフカバーもいくつかあり)しているので、聴き比べるのも一興だろう。
「Sea Of Joy」ではグレッチのバイオリン(フィドル的奏法)がブリティッシュフォーク的な雰囲気を醸し出している。グレッチはクラシックからカントリーまで嗜む音楽オタクだけに、こういう演出はとても上手い。アルバムの最後を飾る15分にも及ぶベイカー作の「Do What You Like」は、メンバー全員にスポットが当たる構成になっていて、ベイカー、ウィンウッド、グレッチの3人がブラインド・フェイス解散後に結成するジンジャー・ベイカーズ・エアフォースのサウンドを先取りしたサウンドとなっている。ベイカーのドラムソロは重厚で素晴らしい。
本作は、クラプトンが自分の音楽を模索している過渡期の作品だが、ウィンウッドという天才とコラボレートすることで緻密なサウンドが生み出されており、ロック史に残る傑作となった。本作以降、クラプトンはアメリカンロック(もしくはブルース)を追求していくので、『スーパー・ジャイアンツ』はブリティッシュロック時代最後のアルバムだと言えるだろう。
TEXT:河崎直人