ポップスのヴォーカル・トリオという
イメージを覆す英国時代の
ビー・ジーズの名盤『オデッサ』

『ODESSA』('69) / BEE GEES
それでもいいのだが、ここではあえてベスト盤以外の1枚選んでみたい。今ではビー・ジーズと言えば映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のサントラの成功によって、彼らは一連のディスコのメガヒットを連発した白人のディスコあるいはR&Bヴォーカル・トリオと思われている。それも事実なのだけれど、初期の甘酸っぱく、瑞々しいほどに美しいメロディーと歌声を聴かせ、英国らしい陰翳に富んだサウンドに魅力を感じていたファンも少なくない。だから、ぜひこの機会に彼らの、もうひとつの姿をとらえたアルバムを紹介したいのだ。選ばせていただいたのは通算6作目となった『オデッサ(原題:Odessa)』(‘69)だ。
激動の1969年、
ただのヴォーカル・トリオでは
ないことを証明する
アルバムからは彼らのルーツであるエヴァリー・ブラザーズ、そしてモータウン等はもちろんだが、『ラバー・ソウル(原題:Rubber Soul)』(‘65)以降の、特に『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(‘67)のビートルズ、ビーチ・ボーイズの、特に『ペット・サウンズ(原題:Pet Sounds)』(‘66)、ザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク(原題:Music from Big Pink)』(‘68)、そして同じ3声コーラスを生かしていたCS&N(クロスビー・スティルス&ナッシュの影響がそこかしこに感じられ、自分たちもシーンの中心にいて、これくらいのものは作れるのだ、という気概が満ちている。だが、惜しいかな、アルバムの統一感はほとんど感じられない。各曲の出来がすごいだけにかえってバラバラ感が否めないのだ。思うにメンバーが書き溜めた楽曲を矢継ぎ早にレコーディングしていった結果、互いに曲に対する主張を譲らず、結果、当時としては異例の2枚組でのリリースになったのではないか。
バリー・ギブは後年、『オデッサ』について、ロックオペラのようなアルバムにする狙いもあったと語っている。そういう意図があってのものなのか、本作には「七つの海の交響曲(原題:Seven Seas Symphony)」(モーリス・ギブの弾くピアノが素晴らしい)、「ウィズ・オール・ネイションズ(インターナショナル・アンセム)(原題:With All Nations (International Anthem)」、「ブリティッシュ・オペラ(原題:The British Opera)」という、コーラス隊も招いての壮大なクラシックのシンフォニーのような曲がある。これを3兄弟が作曲している。オーケストラアレンジ、ディレクターをビル・シェファードが担当しているとはいえ、こんな作品が書けてしまう才能には驚愕する。だが、せっかくの楽曲、コンセプチュアルなシンフォニーを活かすには、間接的にアルバムを俯瞰し、統一感を持たせるべく構成を考え出せる人物が不可欠だ。バンドの全権を握り、楽曲を一括するような、ザ・フーのピート・タウンゼント級の才能がバンド内外に必要だったのだ。
デビュー以来、バンドのマネージャー兼プロデュースを務めるロバート・スティッグウッドは敏腕で、当時ビー・ジーズ以外にあのクリームも手がけていて、クリーム解散後も長くクラプトンの仕事をマネージメントしていた。そして、プロデューサーとして関わる映画『サタデー・ナイト・フィーバー』や『グリース』の成功も、彼の手腕によるところも少なくない。しかし、バンドとしてのビー・ジーズをまとめるのは彼の力を持ってしても困難なものだったのだろうか。