アメリカン・フォーク界の重鎮、
ポール・サイモンが挑んだ
異文化圏コラボレーションが
投げかけた成果と波紋

『GRACELAND』(‘86)/Paul Simon、『The Rhythm Of The Saints』(‘90)/Paul Simon

『GRACELAND』(‘86)/Paul Simon、『The Rhythm Of The Saints』(‘90)/Paul Simon

前回、前々回とブラジル/ボサノヴァ音楽の名盤を紹介した。その関係で80年代~90年代に堰を切ったように我が国に紹介されだした米英語圏以外の音楽、つまりワールドミュージックについて振り返る時間が多くなった。そこで、ついでというわけではないのだが、今回は西洋音楽、ワールドミュージックと米英語圏のポピュラー音楽との関係を考える上で、記念碑的なアルバム2枚を選んでみた。

ポピュラー音楽とワールドミュージック、あるいは民族音楽と融合、邂逅を試みたアーティストとしては元ジェネシスのシンガー、ピーター・ゲイブリエルやトーキング・ヘッズのデビッド・バーンもよく知られる存在だが、今回はその筆頭格とも言うべきポール・サイモンの『グレースランド(原題:Graceland)』(‘86)と『リズム・オブ・ザ・セインツ(原題:The Rhythm Of The Saints)』(‘90)を取り上げてみたいと思う。両作は対となるアルバムで、まとめて紹介することに、たぶん異論はあがらないだろう。

ポール・サイモンの経歴を紹介し出したら、複数ページを必要としてしまうはずなので思い切って省かせていただくが、サイモン&(アート)ガーファンクル、その前身となるトム&ジェリーとして1957年頃からプロのキャリアをスタートさせてから、現在まで絶えずクリエイティブあふれる創作活動を続けてきた。現在80歳というから同じフォーク出身としてはあのボブ・ディランより一歳若いものの、デビューは5年ほどサイモンのほうが先輩である。2018年9月にライヴツアーからの引退が発表されたが、コロナ禍にはファミリーや友人を伴ってのミニライヴ配信なども頻繁に公開され、元気な姿を見せていた。目下のところの最新作は『イン・ザ・ブルー・ライト(原題:In the Blue Light(’18)で、一応これがキャリア最後のアルバムである、とも発表されているのだが…。

※ポール・サイモンの名盤は過去にも本コラムで何度も紹介しているので、併せてお読みいただければと思う。
・『ポール・サイモン』/ポール・サイモン
https://okmusic.jp/news/299517
・『明日にかける橋』/サイモン&ガーファンクル
https://okmusic.jp/news/42628
『グレースランド』が制作される以前からポール・サイモンはすでにアメリカ音楽界において“大家”と呼ばれるに相応しい実績を、前述のサイモン&ガーファンクル、ソロ活動を通じて示してきた。しかし、1981年に11年振りにガーファンクルと組み、ニューヨークのセントラルパークで53万人もの観客を集めたフリーコンサートは大きな話題を集めたものの、その時期ソロ作はヒットせず、セールスも惨敗。83年に発表された5枚目となるソロアルバム『ハーツ・アンド・ボーンズ(原題:Hearts and Bones)』はサイモンらしいクオリティーの高い作品ではあるが、楽曲の魅力が伴わず、どこか精彩を欠いている。低迷期に陥っていたと言えるだろうか。

OKMusic編集部

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