アイランド所属の
異色の面子が顔を揃え、
ケヴィン・エアーズの
絶頂期をとらえたライヴ。
『June 1, 1974 〜
ケヴィン・エアーズ
&ジョン・ケイル、イーノ、ニコ』
“悪魔の申し子たち。
その歴史的集会より”
その後、ケヴィン・エアーズやジョン・ケイル、ニコ、ロバート・ワイアットらのプロフィールを知り、どんな音楽を作っているのかを理解すればするほど、「悪魔〜」と書いたアルバム担当者のトンチンカン、やっつけ仕事ぶりに呆れ果てたのだった。たぶん音も聴かずに、いや聴いたかもしれないがまるでピンと来なかったものの、出演者のうち、ふたりがヴェルベット・アンダーグラウンドに関係していること。そのアンダーグラウンドという言葉から、強引に“悪魔”というのをイメージしたのだろうか。しかも、アングラ界では有名な連中が一堂に会して…という資料コメントを鵜呑みにしてコピーを書いたのに違いない。それが半世紀近くたった今も使われているってどうなのか? というわけで、本作のことを振り返りつつ、ことのついでにもっとマシなコピーはないものかと私も考えてみたいと思う。
まず、このライヴは「歴史的集会」ではない。ケヴィン・エアーズがアイランド移籍第1作目の「夢博士の告白」(これはなかなか秀逸な邦題である)の発売を記念してのライヴイベントをレインボーシアターで開催することになったのだが、せっかくだから同じレーベルメイツの(いまいちセールスが芳しくない)アーティストのプロモーションもぶつけたらどうか、というアイランド側の無理やりなブッキングがなされたというのが真相だ。後年、ケヴィン自身インタビューを受けた際にこの時のコンサートについて重い口を開いているが、無理な組み合わせであまり意味のあるものではなかったふうな発言を残している。
コンサートのメインアクトはあくまでケヴィンと彼のバンドで、オリー・ハリソール、マイク・オールドフィールドやロバート・ワイアット、ラビットらを含むサポート陣はイーノ、ケイルのバックもこなしている。また、イーノとケイルはケヴィンのステージでバックに加わっている(目立たないが)。ニコのステージのみ、イーノが務めている(アルバムではジョン・ケイルがニコのサポートをするのが常なのに、この時はイーノに任せている)。というわけで、ニコとジョン・ケイルは別として、ケヴィンとイーノ、そのふたりとジョン・ケイル、それぞれ普段の付き合いもなければ、音楽的な交流もない。このため、コンサートまで、ほぼ一週間(!)ほどかけてリハーサルを行うことになったという。
リハもそうだが、会場となったレインボーシアターの楽屋の空気はさぞかし妙なものだったろう。社交的なケヴィンは誰とでも言葉を交わしただろうけれど、ニコとしゃべることなんてあっただろうか。
実際にはケヴィンの『The Confessions Of Dr Dream And Other Stories 夢博士の告白』(‘74)に1曲、タイトルチューン「The Confessions Of Dr Dream And Other Stories」にニコがヴォーカル参加していたりする。エフェクトもかけ、地の底から湧いてくるような陰気な声を聴かせる。制作意図は不明だが、実験的でやや浮いた楽曲である。ケヴィンが彼女の起用を望んだのか疑問だ。
コンサートの全貌が明らかになれば印象はちがってくるかもしれないが、アルバムに収められたのはA面がイーノ2曲、ジョン・ケイル1曲、ニコ1曲。B面5曲は全てケヴィン・エアーズという構成になっている。イーノ、ケイル、ニコのボリュームが実際にこの程度であったとは考えにくい。これではほとんどレーベル・サンプラーみたいである。いつの日か、完全版のような形で音源がまとめられることを切に願うところだ。
※ 音源の有無はともかく、 アルバムのラストにニコのヴォーカルでバックはケヴィンも含めた全員で「All Tomorrow’s Party 」/ The Velvet Underground で締める、と。そうなっていれば、コンサート/アルバムはもっと意味のあるものになっていただろう。
かいつまんで出演者の紹介をしつつ話を進める。レディ・ファーストでいくとしよう。