デビッド・ボウイの尽力で
モット・ザ・フープルが創り上げた
名盤『すべての若き野郎ども』

『All The Young Dudes』(’72)/Mott the Hoople

『All The Young Dudes』(’72)/Mott the Hoople

演奏は上手いが、粗いB級ロックンロールバンドであったモット・ザ・フープル。しかし、彼らの5作目にあたる本作『すべての若き野郎ども(原題:All The Young Dudes)』では、タイトル曲が大ヒットしただけでなく、素晴らしい内容のアルバムを創り上げ、大成功を収めることになる。それまでのアルバムは何でもできる力量があるだけにR&Bからカントリーっぽいものまで、手を広げすぎて焦点が絞りきれていなかった。方向性の定まらなかった彼らに手を差し伸べたのが、その頃、飛ぶ鳥をも落とす勢いのデビッド・ボウイである。彼はロック史上に残る名曲「すべての若き野郎ども」をグループに提供しただけでなく、プロデュースまで買って出て彼らの最良の部分を引き出すことに成功する。今回はボウイとモット・ザ・フープルのタッグによって生まれた名盤『すべての若き野郎ども』を紹介する。

モット・ザ・フープル結成

60年代半ば、すでにイギリスのロックシーンで力量を認められていたギタリストのミック・ラルフスは自身のグループでメジャーデビューに備えて、ギグを繰り返していたのだが、69年に歌えるキーボード奏者のイアン・ハンターをオーディションで見出し、新グループ結成を決定する。ミックの卓越したギタープレイとイアンのカリスマ性のあるリードヴォーカルは、アイランドレコードのプロデューサーで、フリーやスプーキー・トゥース(後年、クラッシュも手がける)を世に出したガイ・スティーブンスに認められ、アイランドレコードからのデビューが決まった。モット・ザ・フープルというグループ名もガイの考案である。なんでもガイが薬物所持の罪で刑務所に入っていた時に読んだ小説の主人公の名前「Mott, The Hoople」から取ったそうである。

ミックの新しいグループ“モット・ザ・フープル”のコンセプトはディランのような歌、プロコル・ハルムのような重厚なキーボード、ストーンズのリズムセクションをミックスしたイメージであるらしい。

アルバムをリリースするごとに
迷走を繰り返す

ただ、残念なことに正統派のハードロックであった最初の2枚のアルバムはさほど売れず、メンバーはガイへの信頼を失っていく。3枚目の『ワイルド・ライフ』(‘71)ではレコーディングの途中でガイは抜けてしまい、自分たちでプロデュースすることになる。この作品はまるでカントリーロックグループのようなサウンドで、余談になるが当時のブリティッシュロックシーンではすでに一部のパブロックグループ(ブリンズレー・シュウォーツやマクギネス・フリントら)の台頭が始まっていたことが分かる。結果はチャートで44位となり、これまでで最高位を記録しているものの、彼らの個性が出ているとはお世辞にも言い難い仕上がりだった。4作目の『Brain Capers』(’71)ではガイがプロデューサーとして返り咲いているものの、アルバムの出来はいまいちで、イギリス本国ではチャートインすらできなかった(アメリカでは208位)。

解散寸前のフープル

『Brain Capers』の失敗やメンバー間の軋轢などが重なり、グループは壊滅状態であった。メンバーでベーシストのピート・ワッツと親しかったデビッド・ボウイは彼らが解散寸前の状態であることを知り、まだ発売されていなかった彼の『ジギー・スターダスト』(‘72)のアルバムに収録するはずの「サフラジェット・シティ」を提供しようとしたが、彼らはその申し出を断っている。しかし、彼らの大ファンであったボウイは、なんとしても解散を食い止めようと新たに「すべての若き野郎ども」を書き下ろし、新作のプロデュースまで買って出るのである。

本作『すべての若き野郎ども』について

本作のレコーディングにはボウイ人脈のミック・ロンソンをはじめ、これまでにない多くのゲストが参加している。メンバーたちもボウイの想いに応えようとしたのか、ここでは彼らの個性であるハードかつ重厚なロックンロールを中心に、ミックのギターワークやイアンの骨太のヴォーカルも、これまでで最高のプレイを聴かせている。彼らはグラムロックなどという流行の狭い枠にはとらわれておらず、ストレートなロックサウンドで真っ向勝負している。

プロデューサーであるボウイの口添えがあったのかどうかは不明だが、彼らは本作からCBSに移籍、アルバムに先だってタイトルトラックの「すべての若き野郎ども」をシングルリリースしている。この曲はボウイの手になる渾身の名作で世界中で大ヒット、今ではロックファンなら誰もが知っているスタンダードナンバーのひとつだ。また、本作に収録された全ての曲が素晴らしく、ルー・リードがヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代から歌い続けている代表曲「スウィート・ジェーン」のカバーから最後の「潜水夫」まで、捨て曲はまったくない。「レディ・フォー・ラブ」はミックのギターが冴え渡り、のちにポール・コゾフ(元フリー)とともに結成するバッド・カンパニーの音作りの手本になっている。そして、ラストの「潜水夫」は深海での孤独を歌ったものだが、ボウイの『スペース・オディティ』の宇宙飛行士の孤独と対をなす双生児的なナンバーである。イアンの巧みなソングライティングと、ミック・ロンソンのアレンジによるストリングスが物悲しく、アルバムのラストを飾るのに相応しい名曲だろう。

このアルバムで開眼した彼らは、この後のセルフプロデュースでリリースした『革命(原題:Mott)』(‘73)も素晴らしい出来だったのだが、残念ながらミック・ラルフスの参加はここまで。彼はバッド・カンパニーを結成することになる。
それにしても、70年代中頃までのボウイの存在がモット・ザ・フープルの再生につながったのは間違いなく、本作を聴いていると才能って伝播していくんだなと思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『All The Young Dudes』1972年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. スウィート・ジェーン/Sweet Jane
    • 2. ママのかわいい宝物/Momma's Little Jewel
    • 3. すべての若き野郎ども/All the Young Dudes
    • 4. サッカー/Sucker
    • 5. ジャーキン・クローカス/Jerkin' Crocus
    • 6. 新しき若者たち/One of the Boys
    • 7. ソフト・グラウンド/Soft Ground
    • 8. レディー・フォア・ラヴ/アフター・ライト/Ready for Love/After Lights
    • 9. 潜水夫/Sea Diver
『All The Young Dudes』(’72)/Mott the Hoople

OKMusic編集部

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