キャロル・キングの『つづれおり』は
全ポピュラー音楽を代表する傑作中の
傑作!

『Tapestry』(’71)/Carole King
白人音楽と黒人音楽が融合した
ロックンロール
リトル・リチャード、ボ・ディドリー、ファッツ・ドミノ、チャック・ベリーら(すべて黒人アーティスト)は、R&Bとロックンロールの橋渡し的な存在として知られるが、ロックンロールという新たな呼び名でティーンのリスナーに向けて仕掛けたのはアランフリードに代表される白人DJであった。一般社会ではまだ人種差別が横行していた時代ではあったが、ポピュラー音楽の内側ではいち早く黒人音楽と白人音楽の融合(クロスオーバー)が起こっていたのである。特にテキサス、テネシー(メンフィスとナッシュビル)、ルイジアナ(ニューオリンズ)などは東部の都会と比べて白人と黒人が近くに居住しており、白人と黒人がどちらの音楽もラジオで聴いていたから、両者の音楽がミックスされて新たなポピュラー音楽が生まれたのである。
エルヴィス・プレスリーの登場と
ポップス
ロックンロールが生まれたことで、アメリカのポピュラー音楽界は大人向けのものからティーンエイジャーに向けて軌道修正していくことになる。アメリカのポップスは職業ライターが時代に即した曲を作り、その曲に合った歌手が歌うという方法が取られていた。ちょうど、かつての日本の歌謡曲と似たスタイルだ(というか、日本の音楽システムがアメリカの方法論を真似ていた)。
職業作曲家としてのキャロル・キング
彼女が作曲、彼女の夫であるジェリー・ゴフィンが作詞で、ふたりはヒット曲を連発する。「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロウ」「ロコモーション」「チェインズ」他、ソングライターとして多くの名曲を生み出し、キング=ゴフィンはアメリカポップス界で著名な作家となった。
ビートルズの登場
ジョン・レノンはのちに「レノン=マッカートニーのコンビで、ゴフィン=キングのようになりたかった」と語っている。ビートルズは最初こそロックンロールバンドではあったが、ブリル・ビルディング系の曲作りも研究し、メロディアスなロックンロールや職業ライターに負けないポップチューンすら生み出していた。それどころか、ビートルズはロックンロールやポップスのような商業音楽にはない芸術的な感覚を持ったロックすら生み出し、ポピュラー音楽界に新たなムーブメントを創造していくのである。
ビートルズ登場以降の
キャロル・キングの歩み
このアルバムは売れる曲と向き合ってきた職業ライターの彼女が、売れる売れないにかかわらず自分の書いた歌を歌うシンガーソングライターになるまでの間をつなぐ大切な成果である。内容は都会的でセンスの良いAORといった趣きがあり、何より彼女の歌が瑞々しく心地良い。自分のヴォーカルの表現力を確かめているような感じもあるが、68年という時代を思うと相当レベルの高い楽曲が揃っている。しかし、このアルバムはセールス的にまったく振るわず、これ1枚で解散することになる。早すぎた音であったのかもしれない。
その後、いよいよ70年に彼女は『ライター』でソロデビューを果たすわけだが、「Goin’ Back」「I Can’t Hear You No More」「Up On The Roof」など、他のアーティストに提供した佳曲が多く収録されている。彼女の持ち味のひとつであるポップソウル的な軽やかさはすでに見受けられるものの、全体的に大人しい印象がある。ただ、彼女の作る音楽が好きなら大好きなアルバムであることは間違いない。
本作『つづれおり』について
そう言えば、70年代にリリースされた日本のシンガーソングライター作品は本作の影響を大きく受けている。このアルバムがなかったら“ニューミュージック”という言葉自体、ひょっとしたら生まれなかったかもしれない。
シレルズの「Will You Love Me Tomorrow」、アレサ・フランクリンの「Natural Woman」、ジェームス・テイラーの「You’ve Got A Friend」など、他のアーティストによって大ヒットしたナンバーをセルフカバーしているのは、前作と同様である。しかし、どの曲も素朴でアーシーな本作のアレンジにはかなわない。さすがは本家というべきか。
アルバムのバックを務めるのは、ザ・シティやジョー・ママのメンバーの他、ジェームス・テイラー、ジャズのサックス奏者カーティス・エイミー、バックボーカルにはメリー・クレイトンやジョニ・ミッチェルなど、錚々たるミュージシャンたちで、同時期のジェームス・テイラーのアルバムのバックミュージシャンとはほとんど同じである。違うのはテイラー作品ではベースがリー・スクラーってことぐらい。
今回はキャロル・キングの代表作というだけでなく、ポピュラー音楽全体を通して最高傑作のひとつである『つづれおり』を取り上げた。もし、キャロル・キングを聴いたことがないなら、これを機会にぜひ本作を聴いてみてください。きっと何か発見があると思うよ♪
TEXT:河崎直人