タイタニックの
沈没事故から歌が生まれ、
ポピュラー音楽の側面が見えてくる

『Ernest V Stoneman: Unsung Father Country 1925-34』('08)/V.A.、『People Take Warning: Murder & Disaster Songs 1913-1938』('07)/V.A.
実は正直に白状すると、この事故の一報を目にした時、不謹慎かもしれないが「昔なら、これもまた歌になってヒットしただろうな」と思ってしまったのだ。沈没船を見に行った潜水艦が、また沈没した…というか今度は浮上しなかった、という顛末は、先に沈んだタイタニック号の事故もあわせ、格好の「災難バラッド」ネタだ、というわけである。実は、あの有名なタイタニック号が沈没したのは今から111年前の1912年の4月14-15日のことだったのだが、この災難はいくつもの歌を生むきっかけになった。
今回はこの、タイタニック号の沈没事故をモチーフにしたヒット曲「The Titanic」を歌ったアーネスト・ストーンマンと、こうした「災難ソング(バラッド)」とポピュラー音楽の成り立ち、因果関係について触れてみようと思う。ご紹介するのはストーンマンのコンピレーションCD『Ernest V Stoneman: Unsung Father Country 1925-34』と『People Take Warning: Murder & Disaster Songs 1913-1938』だ。
※20世紀前半に書かれたマーダー・バラッド、災害ソングばかりを集めたもの。ヒルビリーからブルースまで、アーティストは多岐に渡っている。対機械(事故)、対自然(災害)、人間対人間(殺人)と、非常にわかりやすくカテゴリーに分けられている。
事故直後から、
それを題材とした歌が作られ、
ヒットする
タイタニックを題材とした歌は事故直後のみならず、その後も多くのアーティストによって作られ、ウディ・ガスリーやレッドベリー、ピート・シーガー、ニューロストシティ・ランブラーズ…などのアーティストが活躍する60年代になってもカバーされたり、またオリジナルが作られたりしている。
今回のアルバムとしてピックアップしたアーネスト・ストーンマンのCDは彼の最初期の1925年から1934年にかけてのレコーディングを中心に集めたもので、「The Titanic」も収録されている。レコード(SP盤)はタイタニックの事故から12年後の1924年に録音され、実数は把握できていないが、大ヒットしたとされる。ストーンマン自身にとってもデビューシングルがいきなり生涯最大のヒット作になったのである。
※CDにはヒット曲製造機みたいな、ストーンマンの巧みなソングライティング、滋味豊か、といいたくなる味わい深い演奏がたっぷり味わえる。録音こそ古いが、歌、演奏センスは今でも十分に通用する。
♬それは月曜日の午前1時頃だった、
タイタニック号が揺れ始めると
人々は、”主よ、私は死にます “と叫んだ
あの大きな船が沈んだ時は悲しかった
あの大きな船が沈んだときは悲しかった
夫や妻、小さな子供たちが命を落とした
あの大きな船が沈んだ時は悲しかった…