ひとりの人間としてのジョン・レノン
に触れられる名盤『イマジン』
ビートルズ時代、新聞や雑誌、テレビをはじめとするメディアに、興味本位による虚像を作り上げられたジョン・レノン。もちろん、彼の苦悩がどれほどのものか我々凡人には知る由もないが、ビートルズ解散後にリリースされた初のソロアルバム『ジョンの魂』(’70)は、一般のリスナーにも彼の本当の人間性が理解できるような仕上がりになっていて、表現者としてのジョン・レノンの天才ぶりがよく分かる大傑作であった。そんな彼がソロ第二弾として送り出した作品が本作『イマジン』。前作と比べると、70年初頭に大流行した内省的なシンガー・ソングライター的表現が強くなってはいるが、アルバムとしての完成度はさらに増している。本作がジョン・レノンのソロ時代における代表作だと言い切ってもよいだろう。彼の内面の叫びがビシビシと伝わってくる傑作だ。
優れたロック作品が次々にリリースされ
た70年代初頭
ビートルズ解散後、裸になったジョン・
レノン
『イマジン』の手法と音づくり
『イマジン』の収録曲
では、収録曲を順に見ていこう。
2曲目の「クリップルド・インサイド」は、本作中唯一のカントリーロック・ナンバー。ジョージ・ハリスンのドブロギター(1)とニッキー・ホプキンスのホンキートンク・ピアノ(2)がパブロック(3)のテイストを醸し出している。ジョージが好きなデラニー・アンド・ボニーやザ・バンド風に仕上げている。
(1)…https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%82%BF%E3%83%BC
(2)…https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%AF
(3)…https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF
続く「ジェラス・ガイ」は、「イマジン」と並んでジョンの作品中、最高位に入る名曲。原曲はビートルズ時代に書かれており、後年その音源はCD化されている。カバーも多く、特にジョー・コッカーとダニー・ハサウェイのヴァージョンは名演だと思う。
4曲目の「イッツ・ソー・ハード」は3連のロッカバラードで、フィル・スペクターらしいちょっとうるさい(笑)ストリングス・アレンジが聴ける。この録音に参加したサックスのキング・カーティスは、レコーディングの帰りに刺殺されており、これがカーティスの遺作となった。また、ドラムのジム・ゴードンはデレク&ザ・ドミノスのメンバーとしても知られるが、後年母親を殺し終身刑を宣告されている(もちろん現在も刑務所内)。
5、6曲目の「兵隊にはなりたくない」と「真実が欲しい」は、どちらもブルージーで泥臭いロック。ジョージ・ハリスンと同じくジョンも、デラニー&ボニーやザ・バンドなどに影響を受けていた時期であったのだろう。特に、ジョージのスライドギターはアメリカ南部の雰囲気を演出している。なお、「真実が欲しい」はビートルズ時代に書かれていた曲だけに、いかにもそれ風に仕上がっている。
7曲目「オー・マイ・ラブ」は、ヨーコとの共作で、これもビートルズ時代に書かれていた曲である。美しいメロディーにのせて歌われるジョンの囁くようなヴォーカルが悲しげだ。「真実が欲しい」と同じく、ビートルズの作品と言っても違和感はない。ジョンの天才ぶりが分かる隠れた名曲のひとつ。
8曲目の「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ?」はよく知られているように、ポール・マッカートニーを痛烈に批判した曲。批判の内容は下記(4)をご覧いただくとして、ひと言付け加えたいのは、ジョンとポールの不仲については、第三者がとやかく言うことではないと思う。文句を言い合っていても、お互いをリスペクトしていたことは間違いないのだ。
(4)…https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%83%BB%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%BB%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%97%3F
9曲目「ハウ?」は、ジョンの生き様を綴った曲だが、スペクターのストリングスがビートルズの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」のアレンジと似ている。異論はあるだろうが、僕は個人的には「ロング・アンド〜」も「ハウ?」もストリングがないほうが良いと思う。曲全体を通して伝わってくる優しさこそがジョンの味わい深さで、彼の人柄が分かる曲のひとつ。
最後の「オー・ヨーコ!」は、ジョンの天才メロディーメイカーぶりが発揮された佳曲で、聴いてる者を包み込むようなオーラを感じる。多くの人がジョン・レノンをイメージするのはこの曲に漂う感覚ではないだろうか。
著者:河崎直人