生き様と音楽が直結した
ブランディ・カーライルの力作
『バイ・ザ・ウェイ・
アイ・フォーギブ・ユー』

『By the Way, I Forgive You』(’18)/Brandi M. Carlile

『By the Way, I Forgive You』(’18)/Brandi M. Carlile

ブランディ・カーライルは思春期の頃にADHDと診断されている。音楽の道を進むために高校を中退して、歌はもちろんギターとピアノのレッスンに励んだ。あるインタビューでは自身がLGBTQだと答えるなど、若い頃から“生きづらさを感じる”人(自分自身も含めて)たちにスポットを当てた曲作りを行なってきた。自ら基金を設立し戦争孤児らに多くの寄付をするなど、社会的弱者の立場を引き上げるための活動を音楽活動と並行して行なってもいる。今回取り上げる彼女の6thスタジオアルバム『バイ・ザ・ウェイ・アイ・フォーギブ・ユー』は、2019年のグラミー賞では3部門で受賞(ノミネートは6部門)するなど、カーライルの才能が大きく開花した作品となった。

フォークロックのスタイル

カーライルは2005年に『ブランディ・カーライル』でデビューしている。この作品でローリング・ストーン誌の「注目すべき2005年の10アーティスト」に選ばれ、全米フォークチャートでも1位になるなど、華々しいデビューとなった。荒々しさと繊細さが混交する説得力に満ちたヴォーカルがドラマチックな楽曲に乗るという彼女のスタイルはデビュー時に確立されており、これはずっと変わっていないと思う。基本的にはフォークロックのスタイルを取っているが、ストリングスが効果的に使われていたり、ロックやカントリー風の味付けもされていたりするなど、かなり分厚いアメリカーナサウンドが特徴だ。なお、曲作りと演奏面でカーライルを助けるのは、デビュー前からのパートナーである双子のティム&フィル・ハンセロスで、この関係は現在まで変わることなく続いている。フィルはカーライルの妹と結婚しており、ふたりは義理の兄弟関係にある。

2ndアルバムの『ザ・ストーリー』(’07)は、アメリカを代表するプロデューサーのひとりであるT・ボーン・バーネットがプロデュースを担当、人気テレビ番組の『グレイズ・アナトミー』で収録曲が使用されることで全米ロックチャートの10位まで上昇し、彼女の名前は一気に全米に知れ渡ることになった。

アルバムごとに変わるプロデューサー

前作の出来が良かっただけに、次のアルバムもT・ボーン・バーネットがプロデュースかと思いきや、3rdアルバムの『ギブ・アップ・ザ・ゴースト』(’09)では、これまた大物のリック・ルービンを、4thアルバム『ベアー・クリーク』(’12)ではトリーナ・シューメイカーを起用している。2ndから4thアルバムのプロデューサーは、グラミー賞受賞経験者という部分で共通しているのだが、次作の『ファイアウォッチャーズ・ドーター』(’15)では前作に続きトリーナ・シューメイカーが担当、サウンド面では少しロック色の濃い仕上がりになっており、それが奏功したのか初めてグラミー賞でノミネートされる結果となった。いずれにせよ、彼女のアルバムに著名で多忙なプロデューサー陣が参加していることはカーライルの才能が本物だという証しではないだろうか。

OKMusic編集部

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