バーバンクサウンドの影の立役者、
ロン・エリオットが残した、
唯一のソロ作
『キャンドルスティックメイカー』は
隠れた名盤
変な冒頭の書き方になってしまったが、今回ご紹介するアルバムも、昨年末にそんなふうに再会してしまった名盤で、救出ついでに少しでも日の目を見せてあげたくなって、紹介することにしました。ロン・エリオットの『キャンドルスティックメイカー(原題:The Candlestickmaker)』(’69)、知る人ぞ知るSSW名盤です。
とはいえ、ロン・エリオットのことを思い、書き、さらに「ロン・エリオット」と名前をつぶやいてみたとしても、この瞬間にそんなことをしているのは広い世界を見回しても、たぶん自分しかいないだろう…。それくらい一般に彼は知られていないし、米英のロックやフォーク、ポピュラーミュージックならそこそこ知っていると自ら標榜している人たちにさえ、彼は気づかれずにいる。それはとても残念なことだ。ロン・エリオットに対してノーマークでいることは、本当にもったいない。
と、偉そうに煽っているが、単純に彼のことが知られずにいることは惜しいし、私は冒頭に書いたように、中古レコードショップで、コーヒー1杯の金額にも満たない値札をつけて売られていたことに憤慨し、つい血圧を上げてしまったわけなのだ。
元祖フォークロックバンド、
ボー・ブランメルズでデビュー
「フォークロック」というジャンルを出してみたのは、ロン・エリオットはかつてその代表格のようなバンド、ボー・ブランメルズ(Beau Brummels)を率い、バンドのほとんどのソングライティングを担当してきたギタリストだったからだ。バンドは1964年に結成され、フォークやカントリーミュージックに、英国のビートバンドからの影響を感じさせるサウンドで知られる。フォークロックということで言えば、ほとんど同時期に結成され、活動期間もほぼ同じザ・バーズ(The Byrds)の存在が知られるが、彼らがボブ・ディランとビートルズの出会いからスタートし、次第にカントリーやブルーグラスに傾倒していったのに対し、ボー・ブランメルズはよりミクスチャー感覚を持ち、映画音楽やソフトロックにも接近しつつ、フォーク、カントリーとロックを結びつけたサウンドを持ち味とした。エリオットが最初に影響を受けたのがジョージ・ガーシュインやカントリーのレフティ・フリーゼルだということを思い起こすと、ブランメルズが提示した音楽性もなるほどと思う。そして、それはやがて“バーバンク”というロス近郊の街の名を冠する音楽の特色とするものだった。
ちなみに、バンドのデビュー曲で、ビルボード最高15位に達するヒットを記録したロン・エリオットのオリジナル「ラーフ・ラーフ(原題:Laugh, Laugh)」(’65)は、当時ラジオDJをしていた、後にスライ&ファミリー・ストーンを率いるシルヴェスター・スチュワート(スライ)がプロデュースを担当している(トリヴィア的なネタかもしれないけれど)。ボー・ブランメルズはトータル6枚のアルバムを残しているのだが、ナッシュヴィルで現地のセッションプレイヤーを招いて制作され、バーズやフライング・ブリトー・ブラザーズより早くカントリーロックを提示したとされる『ブラッドリーズ・バーン(原題:Bradley’s Barn)』(’68)を発表後、エリオットはバンドを脱退し、ソロに転じる。