「晩秋」('02)/ガガガSP

「晩秋」('02)/ガガガSP

フォーク・イズ・ノットデッド!
熱いフォークイズムを感じる楽曲5選

1960年代、ボブ・ディランら、アメリカンフォークの影響を受けながら、独自の発展を遂げ、日本に根付いたフォークミュージック。吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげる、長渕剛といった、70年代にデビューしたシンガーが今も現役で活躍する中、“フォークシンガー”と呼称される歌手こそ少なくなったが。歌詞やメロディーを重要視し、アコギのシンプルなサウンドと歌声だけで聴き手の心を突き動かす、フォークの“イズム”を継承したミュージシャンは少なくない。歌い手の人柄が明確に見え、メッセージが聴き手にダイレクトに伝わる音楽、それがフォークミュージック。今回はギターという刀を背負った、勇ましく男気あふれるミュージシャンの楽曲を選んでみました。
「晩秋」(’02)/ガガガSP
「愛してる Track by INFINITY16」(’11)/若旦那
「始まりの街」(’16)/尾崎裕哉
「明日はきっといい日になる」(’15)/高橋優
「明日はきっといい日になる」(’15)/高橋優

1. 「晩秋」('02)/ガガガSP

「晩秋」('02)/ガガガSP

「晩秋」('02)/ガガガSP

今年で結成20周年を迎えたガガガSP。もともとはコザック前田(Vo&Gt)の路上での弾き語りユニットから始まったこのバンド。“パンク・イズ・フォーク”のキャッチフレーズでガガガと登場するや青春パンクブームも後押しして、その人気は一気に全国区へ。パンク+フォークという新ジャンルの発明や、高田渡の「自衛隊に入ろう」カバーを音源化したり、前田が泉谷しげるとユニットを組むなど、60~70年代のフォークソングへのリスペクトが色濃く出た音楽性や活動から、その頃を知らない若い世代にフォークへの関心を抱かせたこと。そして、フォークソングのパンクにも通ずる強いメッセージ性やアンチイズムを継承して、後世へと受け継いだことは賞賛に値する。「晩秋」は暑苦しさと儚さとセンチメンタリズムが同居した、ガガガSPの中でも大好きな曲。ちなみに今秋には、地元・神戸で20周年を記念した自身主催による大型フェス『長田大行進曲』の開催も決定してる。地元を愛し続けた彼らの勇姿を神戸で見届けよう!

2. 「愛してる Track by INFINITY16」
(’11)/若旦那

「愛してる Track by INFINITY16」(’11)/若旦那

「愛してる Track by INFINITY16」(’11)/若旦那

ジャパニーズ・レゲエ代表と言える湘南乃風のメンバーとしても知られる若旦那が、ソロ活動ではアコースティックギターを抱え、弾き語りスタイルでもライヴをしていることは、あまり知られていない。まして、さだまさしの影響を多分に受けており、さだを師匠と呼んで慕っていることを知っている人は少ないだろう。若旦那の熱くやさしく純粋で、時にセンチな人間性が、湘南乃風の楽曲よりもさら伝わってくるソロ楽曲たち。「愛してる」はもともとINFINITY16との共作曲だが、ライヴでアコースティックの温かい響きに乗せて歌い、会場中が《愛してる》の合唱を合わせると、音源とはまったく違ったこの曲の魅力が見えてくるから不思議。個人的にすごく好きなのは《諦めること 諦めた 絶対弱音なんかはかなよ》の若旦那らしい一節。まるで会話するように歌う、何気ない一節に人間味が滲み出て、いつまでも聴く者の心に残るのもフォークや弾き語りの魅力。

3. 「始まりの街」('16)/尾崎裕哉

「始まりの街」(’16)/尾崎裕哉

「始まりの街」(’16)/尾崎裕哉

まだ、彼の存在や素性も知らなかった去年の2月。ライヴハウスで歌う姿を観て衝撃を受けて、「えっ!? この声で尾崎っていうことは……?」とスマホで検索したところ、尾崎豊の実子だと知って仰天。その後、7月にTBSテレビ『音楽の日』に生出演し、尾崎豊の「I LOVE YOU」をカバー。さらにデビュー曲となる「始まりの街」を初披露したことはネットニュースでも多く取り上げられたので、知ってる人が多いと思うが。父親を彷彿させる歌声と堂々とした佇まいは放送後、ネットでも大きな話題を集めた。僕も放送を見て、「I LOVE YOU」を歌う彼の姿に驚いたが。もっと驚いたのがオリジナル曲「始まりの街」だった。亡き父と母親に向けて書いたというこの曲。たっぷり想いのこもった歌詞と歌声、そして切なくも力強く美しいメロディーに、僕は完全に心を持っていかれた。そして、この曲からはここから始まる、決して安易ではないであろう音楽の道を歩む、彼の覚悟もしっかり感じることができた。ここから年齢や経験を重ねて生まれてくる、尾崎裕哉の音楽が本当に楽しみだ。

4. 「明日はきっといい日になる」(’
15)/高橋優

「明日はきっといい日になる」(’15)/高橋優

「明日はきっといい日になる」(’15)/高橋優

高橋優のデビュー曲「素晴らしき日常」を初めて聴いた時、怒りやいらだちをエネルギーにしながら、腐ることなく明日への希望を歌う姿勢と、ギターを背負って歌う姿や表情にゾクゾクして、「お〜、すごい人が現れた!」と思ったのを覚えてる。それから5年。車のCMソングとしても使用され、彼の名をさらに世に広める楽曲となったのが「明日はきっといい日になる」。明るく爽やかなこの曲が「素晴らしき日常」と曲調こそ違えど、《ただ愛して 生きてゆけるなら きっと明日は素晴らしい》と歌っていたあの時と変わらず、明日への希望を諦めずに歌い続けていることに気付いた時、「この人は本当に強いし、信用できるミュージシャンだな」と思った。どんな時代も聴き手を信じて、歌の力を信じて、そして自分自身を信じ続けられる強さこそが、ひとりで戦うミュージシャンには必要だと思うし、そんな強さを持つミュージシャンに僕は惹かれる。

5. 「Forever Young」('17)/竹原ピ
ストル

「Forever Young」('17)/竹原ピストル

「Forever Young」('17)/竹原ピストル

今回、そんなことばかり書いてるが、野狐禅のデビュー曲「自殺志願者が線路に飛び込むスピード」を聴いた時の衝撃は、本当にすごかった。当時、僕は「ブルーハーツ以来の衝撃」なんて言ってたけど、まんざら嘘じゃない。鬼気迫る歌声とリアリティーあふれる言葉に震えて、僕は野狐禅が一発で大ファンになったし、彼らの登場でシーンの潮目が変わると本気で思った。しかし、何かが大きく変わることもなく、野狐禅は09年に解散。その後、ソロとして活動を始めた竹原ピストル(Vo&Gt)は今も時々、メディアに持ち上げられたりしながら全国をドサ回りして、誰に媚びることなく真正直な本音を歌い続けている。そんな彼を見ていると、「売れることだけが正しいことなのか?」と、僕は改めて考えさせられる。もちろん音楽で生活できるだけの稼ぎはあったほうが良いに決まってるのだが、例えば、地方でライヴをやった時に「死にたい」と真剣に思ってるヤツをひと晩だけでも思いとどまらせることができたら、それでいいじゃねぇかと本気で思ってしまう。僕だって落ち込む夜のひとつやふたつあるけど、この曲の《Forever Young あの頃の君にあって Forever Young 今の君にないものなんてないさ》の一節に本当に救われた。急場しのぎかもしれないし、実際何かが解決するわけじゃねぇかも知れねぇけど、それでいいじゃねぇか。

著者:フジジュン

OKMusic編集部

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