ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

残暑と湿気で気だるい晩夏、
淡墨色の夜空を見上げて聴きたい5曲

光の網が泳ぐような逃げ水に視線を奪われたり、甘酸っぱいシロップで彩られたかき氷を儚さと一緒に飲み干したり、500円以上の“他愛がなく、美しい思い出”を作るために汗だくでタピオカ屋に並ぶ制服に胸を締め付けられたりする前に酷暑は終わってしまったようです。夏着物に袖を通すとまだまだ汗ばむ頃合いではあるのですが、勝ち虫が淡い橙の空を切り裂いて真っ直ぐに飛んでいくさまを見ては秋の訪れに寂しさを覚えます。しかし、夏を惜しみたい夜、寝付けない真夜中過ぎにぼんやり耳を澄ます5曲を紹介します。
「夏の前日」収録アルバム『犬の約束』/たま
「Ghost Dance」収録アルバム『Easter』/Patti Smith Group
配信シングル「朝花節 REMIXED BY 坂本慎太郎」/元ちとせ
配信シングル「決壊」/betcover!!
「戦争の夢」収録アルバム『Ghostific Literacies』/ghostleg

夏の前日(‘92)/たま

「夏の前日」収録アルバム『犬の約束』/たま

「夏の前日」収録アルバム『犬の約束』/たま

風通しのいい少年性や、日常の皮膜を剥がして露わになる死と異世界の怪しさを孕んだ詩情、丹念に織り込まれた布地のようなテクニックで昔も今も孤高であり続ける“たま”。メンバー全員が作詞作曲とメインヴォーカルを担った多才っぷりも特徴のひとつですが、「夏の前日」はベースのGさんこと滝本晃司の作品です。入眠幻覚とも絵本の中の世界ともとれるような歌詞を、緩慢なテンポで詩を詠むように歌い上げる声、その裏で萌芽のごとく刻まれるスキャット、一転してざわつく足や寝苦しい真夜中の不安をそのまま吐き出したようなサビで締め括られるプログレッシブな構成に、“日本の夏”が抱える闇の予感が息づいています。

「Ghost Dance」(’78)
/Patti Smith Group

「Ghost Dance」収録アルバム『Easter』/Patti Smith Group

「Ghost Dance」収録アルバム『Easter』/Patti Smith Group

あらゆるレジェンドと呼ばれるミュージシャンが不帰の旅に出る昨今、今なおニューヨークパンクの女王として君臨し続けるパティ・スミス。「Ghost Dance 」はPatti Smith Group名義で発表されたアルバム『Easter』に収録されています。ロックンロールのマスターピース「Because the Night」の扇情的な余韻の風だけで揺られる振り子のような乾ききったストイックさ、無駄な贅肉のない骨の髄から響き渡るざらついたパティの唸りと咆哮が発光する物悲しさに反して同じ歩幅でステップを刻むかのごときコーラスやギターの音色がどことなくユーモラスにも感じられ、「Ghost Dance」というタイトルから膨らむイメージがそのままそこにあります。

「朝花節 REMIXED BY 坂本慎太郎」
(‘19)/元ちとせ

配信シングル「朝花節 REMIXED BY 坂本慎太郎」/元ちとせ

配信シングル「朝花節 REMIXED BY 坂本慎太郎」/元ちとせ

元ちとせが歌う奄美大島の“シマ唄”を国内外のさまざまなアーティストがリミックスするプロジェクトの第一弾。リミックスを手掛けたのは元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎です。ループするがらんどうのリズムボックスと寄せては返す波のようになスティールギターは灰色がかったまま延々と続き、終わりのない虚無を描きながらも肌に熱を持たせる怠惰さや、平坦さから生まれるサイケデリアを有しています。その中に組み込まれ、交わりながらも力強さとしなやかさに一切影を落とすことない元ちとせと中孝介の歌は洞穴から海に吹き抜けるつむじ風を思わせ、日本の果てよりももっと遠い、架空の国の情景が浮かびます。

「決壊」(‘19)/betcover!!

配信シングル「決壊」/betcover!!

配信シングル「決壊」/betcover!!

1999年生まれのヤナセジロウによるソロプロジェクトbetcover!!のメジャーデビューアルバム『中学生』から、テレビアニメ『闇芝居』のエンディングテーマに起用された「決壊」を。感情の「決壊」の手前、血しぶきを浴びるような世界の「決壊」から後ずさった内省的な画角の情景が淡々と紡がれる歌詞を、解凍されないままの孤独感を携えた朴訥とした声がゆえに生まれる“誰のものでもあって誰のものでもない”普遍性。素体のままのドラムの無表情なリズムから倒けつ転びつしながら速度を上げて広がるローファイなギターが脈を吹き込む忙しない展開に、自分以外の誰かの寂しさ思い出さずにはいられません。

「戦争の夢」(‘19)/ghostleg

「戦争の夢」収録アルバム『Ghostific Literacies』/ghostleg

「戦争の夢」収録アルバム『Ghostific Literacies』/ghostleg

ラッパーのワニウエイブと“BL大好きミュージシャン”ニイマリコ(HOMMヨ、duMo)によるユニットghostle。「戦争の夢」は1stフルアルバム『Ghostific Literacies』の冒頭を飾る1曲で、思考の放棄と沈黙は白いシーツのおばけを量産するベルトコンベアに乗る手段でしかないのだと思い知らされる反戦歌です。鋭角的なベース音や無骨な打音、フェードインとアウトを繰り返すシンセサイザーの音の中で、血の詰まった袋を踏みつけるようにして浮遊するニイマリコの少年然とした声、巨大すぎるがために認識すらできない漠然としたものへの予感が綴られたリリックが細く光りながらたなびくこの曲が、レクイエムを思わせるピアノのアウトロを滲ませて消える時、「表現とは怒りや悲しみや警告をポケットサイズにしてくれる魔法だ」と実感しました。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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