心の琴線の奥の奥を激しく揺さぶるバラードの魅力はオールシーズン、季節を選ばず、いつ聴いても素晴らしい。けれど、なぜか秋という季節にバラードはよく似合う。そして、バラードは人それぞれ自分はこの曲が好き!という主張が明確に表れ、その人の音楽的嗜好が如実に出るものかもしれない。個人的には若い頃に失恋した時、また心に傷を負った時にバラードがカサブタのような役割を果たしてくれ、そっと寄り添ってくれるような存在だった。これを機に自分にとっての“名バラード”を探してみてください。

1.「ライオン」(’06)/10-FEET

彼らのライヴ必須曲に「RIVER」がある。インディーズ時代の3rdシングル(02年発表)で、いわゆるバラードとは違うものの、涙腺を刺激する哀愁のメロディーに加え、当時大々的に日本語詞を用いた衝撃とともに今やバンドの代名詞と言える楽曲だ。その後、メジャーに移籍した後、これまた挑戦的な楽曲で、非常にバラード色の強い異色ナンバーを投下した。それが7thシングル「ライオン」(06年発表)である。イントロからホーン&女性コーラスを導入した柔らかな始まりで、TAKUMA(Vo&Gu)のレゲエ風の歌い回しこそ熱いが、全体のトーンはバラードと言いたくなる壮大な仕上がり。中盤のフルートの味付けも効果てきめんで、またライヴで聴きたい隠れた名バラードだ。

2.「CAN'T SLEEP BUT...」(’07)/ム
ラマサ☆

男女8人編成スカポップバンドで、09年に惜しまれながら解散したムラマサ☆。今年4月になんとYUMI(Vo)、TOSHIHIRO(Ba)、masashi(Sax)の元メンバーを中心に新バンド、エイリアンズを立ち上げ、僕は腰が抜けそうになるほど驚いた。時代は回るのだ。そのムラマサ☆はジャンルを飛び越えた良質曲を数多く発表してきた。この4thシングル「CAN'T SLEEP BUT...」(07年発表)は、明るくハジけたスカポップチューンが多い中、メランコリックなメロディーが胸を強打する秀逸曲と言える。何度聴いても涙腺が緩みそうになる。ホーン隊の音色もこんなに切なく響くものなのか、としみじみ曲の世界観に浸ってしまう。

3.「I'll Be There For You」(’88)
/BON JOVI

彼らの地元名を冠した4thアルバム『NEW JERSEY』(88年発表)は、前作『SLIPPERY WHEN WET』の大ヒットを受け、そのプレッシャーを跳ね返すような名盤を発表する。このアルバムはアメリカ、イギリスでもチャート1位を獲得し、ここからシングルカットされた楽曲も次から次へとチャート上位を記録する。とりわけ、「Bad Medicine」と「I'll Be There For You」は1位を奪取した。前者はアッパーなハードロック、後者はバラードど真ん中と言える曲調で、個人的にもBON JOVIの楽曲群の中でも屈指のバラードナンバーだ。現在はバンドから離れてしまったリッチー・サンボラ(Gu)の名脇役的な力強いコーラスも素晴らしく、後半のジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)の掠れ気味に歌い上げるハイトーン・パートには感情移入せずにはいられない。

4.「Ain't No Love In The Heart Of T
he City」(’78)/WHITESNAKE

普段メタルは聴かない。そんなリスナーの心にさりげなく忍び込むのもバラードの力かもしれない。WHITESNAKEは多くのバラードを発表しているが、これは初期の名曲と言える味わい深い楽曲だ。特にブルージーな表情で迫るデイヴィッド・カヴァデール(Vo)のセクシーな歌声は、男女を問わずうっとりさせられること間違いない。その落ち着いた曲調は大人のバラードと位置付けたくなる渋さだが、ライヴでは観客も歌詞を大声で合唱する光景が広がる。もちろん部屋でひとりで聴いても、心に染み入り、ふとした時に聴きたくなる楽曲なのだ。この他に「Is This Love」などもこの季節にぴったり合うだろう。

5.「Heaven」(’89)/WARRANT

84年にロサンザルスで結成された彼らは、LAメタル第二世代というポジションだった。そして、1stアルバム『DIRTY ROTTEN FILTHY STINKING RICH』(89年発表)で華々しくデビューを飾る。ここに収録されたバラード「Heaven」がスマッシュヒットし、アルバムは200万枚のセールスを記録する。その意味でもバンド名を一気に知らしめる重要曲と言えるのだ。アコギを使い、スローテンポに進みながら、抑制を効かせたサビの爆発感は甘いメロディーと相まって、胸にグッと迫るものがある。00年代にジェイニー・レイン(Vo)は一度バンドを離脱〜復帰〜解雇という流れを辿り、11年に47歳の若さでこの世を去った。しかし、あの甘いルックスとメロディーはずっと忘れない。珠玉のバラードです。

著者:荒金良介

OKMusic編集部

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