5月が終わるからこそ、“惜春”にち
なんだ5曲

5月の季語に“惜春”という言葉がある。読んで字のごとく、過ぎ去っていく春を惜しむ気持ちを表した言葉だ。つい最近まで桜の木の下でドンチャン騒ぎしていた人たちの笑顔や歓喜は、遠い昔のことのように感じてしまう。今回は“惜春”をキーワードに、それにマッチしそうな曲、またはその言葉に付随するような曲、あるいは、その言葉を拡大解釈するかたちで5曲を選んでみました。暑い夏が来る前に、過ぎ去った春を復習するのも悪くない。

1.「桜が咲く前に」('15)/きのこ帝

 2015年、早くも私的暫定1位に君臨する名曲である。作詞作曲を手がける佐藤千亜姫(Vo&Gu)は岩手県盛岡市出身で、盛岡は4月下旬から桜が咲き始めるという。この曲を収めたメジャー1stシングル「桜が咲く前に」は4月29日発売。そう、タイミング的にドンピシャなのだ。上京して10年という佐藤の心情を繊細に描いた歌詞とメロディーは、ポエティックかつノスタルジックで、とんでもなく感情移入させられる。儚い。切ない。その気持ちを抱え、前へゆっくりと歩き出す静かなポジティブ感に胸を締めつけられる。轟音、シューゲイザーの文脈で語れることが多いきのこ帝国だが、前作『フェイクワールドワンダーランド』、そして、今作でポップスの領域にも恐れず突き進んでいる。この新しい春感が眩しい。

2.「LOOK UP TO THE SKY」('02)/SA

 今年の7月11日に日比谷野外音楽堂でワンマンを決行する我らの兄貴・SA。4月にニューアルバム『BRING IT ON!』をドロップしたばかりだが、これが聴けば活力が漲る、元気になる、精根アップ間違いなしの超エネルギッシュな一枚だった。その新作と同時に現メンバーによる第一弾作『GREAT OPERATION』が再発された。今はほぼ全編日本語詞で熱いメッセージを訴えるサウンドに焦点を絞っているが、この頃は英語詞の激情パンクロックを貫いていた。その中でもこの曲は"空を見上げてごらん"という題名通り、ミドルテンポの穏やかな曲調で、どこか春風のような爽快さを漂わせた一曲だ。《Look up to the sky/Walking my way》の歌詞も胸に沁みる。

3.「STAY WITH ME」('14)/グッドモ
ーニングアメリカ

 今年11月に初の日本武道館公演を敢行するグドモ。アッパーでダイナミックなライヴあふれる楽曲に注目されることも多い彼らだが、作品の中に1、2曲ほどテンポを落とした楽曲もちゃんと忍ばせている。それがまたこのバンドの魅力をグッと違うかたちで炙り出しており、いいアクセントになっているのだ。昨年10月に出たメジャー2ndアルバム『inトーキョーシティ』収録のこの曲は、電子音を思いっ切りフィーチャーしたフワフワした浮遊感に酔いしれるナンバー。うららかな春の陽気を感じさせる柔らかなメロディーも絶品! 《oh oh-!!》の明るいコーラスもシンガロングを誘い、聴く者を温かい一体感の輪に導いてくれる。大好きな一曲だ。

4.「18 AND LIFE」('89)/SKID ROW

 BON JOVIと同郷のニュージャージー発であり、その弟分として華々しいバックアップを受け、彗星のごとくデビューした彼ら。その1stアルバムのインパクトたるや、当時10代だった自分の心を、肉体を、全神経を串刺しにするほど凄まじいものだった。オープニングを飾る「Big Guns」から、まさにどてっぱらにマグナム銃を打ち込まれたような衝撃が走った。若気の至りどころの騒ぎじゃない感情の爆発ぶり。ギラギラしたメタルサウンドを散りばめた傑作デビュー作。その中でも特に響いた曲が意外にもセンチメンタルなこの曲だった。未来への展望が見えず、ただただ何かを求めて彷徨う日々。その心情は春夏秋冬で言えば、まだ地に足が着かない春のムードとシンクロする。

5.「Strawberry Fields Forever」('6
7)/THE BEATLES

 数々の名曲を持つTHE BEATLESだが、これは14枚目のシングルにあたる楽曲で一度は耳にしたことがある人も多いだろう。アルバムは『MAGICAL MYSTERY TOUR』に収録され、僕の時代は音楽の教科書に載るほど知名度が高く、授業で歌わされた経験もあるため、心に強く残っている。メロトロンを導入した独特な音作りにより、幻想的かつサイケデリックなサウンドが印象的だ。そして、何より老若男女に響くメロディーの美しさに心からうっとうっとりさせられる。“メロに溺れる”とはこういうことを言うのだろう。スローテンポの穏やかな曲調、また、浮いては沈む緩やかな起伏はのどかな春っぽさを感じさせる。

著者:荒金良介

OKMusic編集部

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