桜以外ねぇのかよ。花見酒に視線を落
としたくなる5曲

毎回好き勝手書いているように見えるこのコラムですが、毎回ネタ出しに懊悩しております。今回は確定申告も相まっていよいよ捨て鉢になり、「もう桜ソングにしてやろうか」とライターとしての道を踏み外しかけたのですが、なんとか思い止まることができたので、桜以外の花を冠した名曲を紹介するという苦肉の策を講じます。日本の国花にして「屍体が埋まっている」という退廃と自酔の暗喩である桜を、数多のミュージシャンがテーマに据えるのは自明の理です。出版業界の鉄板ネタが美容とお金であるように、広告業界がアイデアに窮すると子供と動物を採用するように。しかし、せっかく外で酒でも煽ろうかという気候がここから長いこと続くのですから、もっと他の花々に目を向けても良いのではないでしょうか。「うん」と頷いてくださらないと私の懐に原稿料が入らず、それこそ来春あたり桜の樹の下に屍が転がることになりますよ。ねぇ。

「我れは梔子」(’16)/林原めぐみ

アニメ『昭和元禄落語心中』のオープニングテーマ、「薄ら氷心中」のカップリングです。プロデュースを担当した椎名林檎の「おいおい、こんな難解な構成の楽曲をJ−POPという体で発表するのですか?」と口角を上げたくなる趣味全開のメロディーラインを“柳に風”とばかりに歌い上げる林原めぐみ女史の密やかで悩ましげな声に、斉藤ネコの凄艶かつ凛としたヴァイオリンが蔦のように絡んでおり、上質なドライフルーツを食むような味わいがあります。この曲における“梔子”は、歌詞の文脈からとらえて“口無し”の暗喩でしょう。ちなみに見頃は6月から7月にかけてなので、よく冷えた白ワインでも傾けながらかけてください。

「カーネーション」(’11)/椎名林檎

『あまちゃん』以降、NHK連続TV小説を観る習慣がついたというユーザーも多いかと思われますが、この曲が主題歌として書き下ろされた同名ドラマも本当に面白かったですよね。あれからもう5年経ってしまったという事実に時々背筋が凍ります。足踏みミシンの動作音をイメージさせるノスタルジックな楽曲のバックを固めるオーケストラには、かつて彼女が率いた東京事変の面々も参加。そして、コンダクターとして指揮棒を振るのは、先述の斉藤ネコです。母の日のイメージが強いため、5月が最盛期と思われがちなカーネーションですが、現在は品種改良の成果もあり2〜7月、9〜11月とほぼ1年中愛でることができるらしいので、ぜひお好みのアルコールとともに。

「梅」(’13)/私立恵比寿中学

しっちゃかめっちゃか遊園地感満載のテクノポップナンバーは、作詞作曲を手がけたヒャダインこと前山田健一のお家芸。「桜のようには注目はされないかもしれないけれど、ひたむきに咲く梅の花」というテーマは、当時すでにトップアイドルへの道を爆走していた“先輩”ももいろクローバーZとの対比にして、自身を奮い立たせる起爆剤としての意味合いもあったのでしょう。《U M E で梅 有名に なんのが 夢》というパンチラインも一興です。まさに今が旬の花ではありますが、実を言うと私はアレルギーレベルの下戸なので、「ホワイトラムと氷砂糖と青梅で自作の梅酒を〜」というような雅趣を楽しめないんですよね。

「秋桜」(’77)/山口百恵

“当時18歳だった山口百恵は〜”の一文にキーボードを叩く指が硬直したのはさておき。「としごろ」でデビューし、「ひと夏の経験」「横須賀ストーリー」「イミテイション・ゴールド」等、本人の年齢に見合わないプロ意識の高さや風格に反して、擦れたイメージの楽曲でお茶の間に絶大なインパクトを与えていた山口百恵の新境地を切り開いた名曲です。感情豊かな低音は山口百恵を“歌手・山口百恵”たらしめる一因ですが、この曲のサビで切なく発されるファルセットも、彼女の演者としての才覚に戦慄するには十分すぎるほどの迫力があります。ここまできたらもう酒なんてどうでもいいじゃないですか、酒にお金使ったらレコード買えなくなるし。

「赤いフリージア」(’03)/メロン記
念日

数年おきに訪れる、「今はハロプロの曲しか摂取したくない」周期はなんなんですかね。アイドルもバンドも80〜90年代リバイバルの潮流にある昨今ですが、ここまでシンプルかつ純粋な王道ポップソングをやられると、聴く側も素直に「この曲の元ネタはあのレコードで〜」なんて肩肘張ることもなく楽しめるものです。《そんな優しさ 初めの頃だけね》《Ah つまらない映画よりも 現実はただマンネリね》というフレーズにも端的に表れている、つんく♂の作詞家としてのスキルの幅の広さはジェンダー論の中でも語られるべきだと思うのです。アルコールの作用していない脳みそで大真面目に。

著者:町田ノイズ

OKMusic編集部

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