【中指を立てた彼女 インタビュー】
女性目線の歌詞に託した
青春時代の後悔と未練
自分の中に溜め込んでいるものを
本気で楽曲にぶつけている
「エンドローム」のファンキーな曲調は、『ザ・グレーテスト・ヒッツ』の中では異色ですね。
3年前に比べてできることが増えていたので、まずはユウキをビビらせてやろうと思って、それまでとは毛色の違う曲を送ったんです(笑)。最初はそのくらいの気持ちだったけど、実際に「エンドローム」を作ったことで可能性が広がりましたね。オーディションに受かってから解散するまでは、中指を立てた彼女は周りからメンヘラロックと言われていたので、自分でもそのメンヘラロックというものに準じるものを作っていたんです。でも、解散を経て、また中指を立てた彼女の曲を書き始めてからは、もっといろいろ書けると思えたんですよ。
そこから怒涛の配信リリースが続くわけですが。
再結成して、これからやっていこうという時にちょうど最初の緊急事態宣言が出て、ライヴもできなければ、スタジオにも入れない時期が続いたんです。その時にできることと言えば、曲を作ることだけだったので、一日2曲ぐらいのペースで作り続けていたんですけど、せっかくだから全曲聴いてほしいと思ったし、ライヴができないんだったら、音源をリリースすることで中指を立てた彼女のことを知ってもらいたくて配信リリースを続けました。
再結成後、何か変化はありましたか?
結成当初は中指を立てた彼女は異物というか、色モノとして見られていたんです。でも、ここ最近のインディーズシーンはバンドの数も増えたし、バンドシーン自体、多様性が受け入れられてきたところもあって、女性目線でメンヘラチックな曲を歌うバンドが受け入れられているというか、面白がられていると思うんですよ。たまたまかもしれないですけど、10代、20代の女性がリスナーとして増えて、僕らがやっているネットラジオに“日々の悶々した気持ちが、中指を立てた彼女を聴いてすっきりしました”みたいな声も寄せられるようになったし。だから、再結成前よりも届くべきところに届いている気がします。
それによって意識も変わったのでしょうか?
変わりました。以前は面白いことができればいいと思っていたんですけど、今はひとつのバンドとして行けるところまで行こうと思うようになりました。ポップな曲もやるし、中指を立てた彼女でも、いい歌詞といいメロディーという意味でメインストリームに通用する音楽ができるんじゃないかというふうに意識が変わったんです。そう考えるようになってからバンドの夢も増えました。今までは無理だと思っていたこともできるんじゃないかと思って、ユウキとはいろいろな夢を話しながら活動しています。
ポップな曲もやるという考えのもとに作った曲は、『ザ・グレーテスト・ヒッツ』にも入っているのでしょうか?
CD版に入っている「何気ない」と「仄か」がまさにそれで、21年5月に両A面シングルとして配信リリースもしているんですけど、さわやかな曲とバラードのラブソングという王道をやろうというところから作っていきました。今後ももっと広いところに届くような曲を作っていきたいと思っています。
では、このタイミングでベストアルバムをリリースしようと考えたのは、どんな理由からだったのですか?
今年で結成7周年なので、縁起がいいと思って(笑)。それで7月7日に既存曲を録り直して、ベストアルバムとして配信リリースしたんですけど、ありがたいことに配信直前にCDでも出さないかというお話をいただいたんです。
選曲はどんなふうに?
自分たちの活動の中でキーになった曲とか、転機になった曲、それこそ初ライヴでやった「あんた嫌い」とか再結成直後に作った「エンドローム」とか…あとは、思うようにライヴができないことに僕が病んでしまい、音楽のことを考えるのが嫌になってしまった中で、“このままじゃダメだ、なんとか打開しなければ!”と思って作ったのが「無駄」なんですけど、それは絶対入れたいと思いました。自分たちの節目節目で大切になっていった曲を選んでます。
ユウキさんの意見も入っているのですか?
もちろんです。「パジャマ」は忘れられた僕らの青春でやっていた曲なんですけど、ユウキがその曲のデモを掘り起こしてきて、“これ、中指を立てた彼女でやったら面白いんじゃない?”と提案してくれたんです。
「パジャマ」のような女性目線の曲を、前身バンドの頃から書いていたのですね。
変わった味つけのひとつとして、中指を立てた彼女以外でも書いていたんです。
もともと書いていたからこそ、中指を立てた彼女を始めた時にそういう発想が出てきたわけなのですね。ところで、どの歌の主人公も男運が悪い上に、相手はバンドマンなんじゃないかと感じる設定が多いのですが、ひょっとしたらハシダさんの実体験がもとになっているのですか?
そうです(笑)。過去の経験について“自分はこう思っているけど、元カノはどう思っていたんだろう?”とか、“その景色をどう見ていたんだろうか?”とか、そういう目線で書いています。そうすることで、自分が25歳になった今も抱えている過去の後悔を消化しているところもあるんです。
それだと、逆につらくなることはないのですか?
思い出を掘り返すわけですから、歌詞を書いている段階からエグいところまで踏み込んでいる感覚はあります…。『ザ・グレーテスト・ヒッツ』の「杏の花」や「無駄」とかは変な話、泣きながら歌を入れました。それぐらい当時の感情とか後悔とか、自分の中に溜め込んでいるものを、本気で中指を立てた彼女の楽曲にぶつけているんです。
歌の主人公の女性たちが、別れた恋人に会いたいと思っている描写が結構あるのですが、それは“こうあってほしい”というハシダさんの願望なのですか?
というよりは、自分が青春時代に対して思い続けているものかもしれないです。ずっと心のどこかで、当時言えなかったことや、あの時こうしておけば良かったということを取り戻したいと思いながら音楽をやり続けているんだと思います。曲に出てくる女性が別れた恋人に未練を匂わせているのは、自分自身が青春時代や、あの頃に出会った人たちに対して抱えている、人には言わない未練が表れているのではないかと。
今後の活動についてはどんなふうに考えているのでしょうか? 最後に聞かせてください。
今は“次に出す作品はどうなるんだろう?”と自分でもワクワクしているところです。ベスト盤を出して、これまでの7年間を総括したわけですけど、それを経て中指を立てた彼女の幅を広げられると思っているので、ベスト盤を経た作品を完成させることが直近の目標です。それがEPになるのか、アルバムになるのかは分からないですけど、曲は書き進めているから、それをかたちにして“一段階上がったよね”と思ってもらえる作品を作りたいと思っています。あとは、とにかくライヴがしたいです。フェスとかサーキットイベントとか、いろいろな人に観てもらえるところに行けるように自分たちでも努力しなきゃいけないと思っています。
取材:山口智男
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アルバム『ザ・グレーテスト・ヒッツ』2021年9月15日発売
中指を立てた彼女
ナカユビヲタテタカノジョ:2014年5月に結成された神奈川県横浜市いずみ中央発の2ピースロックバンド。結成当初よりヴォーカルギターとドラムのみの最小編成で、全ての楽曲を女性目線の歌詞で歌うという独自のスタイルを貫く。一度解散を経て、2020年4月に本格始動。中指を立てた彼女 オフィシャルHP
「文学少女になりたかった」MV
「マミー」MV
「無駄」MV
「恋をしていた」MV
「あなたがバンドを辞めるまで」MV
「サンイーグル」MV
「エンドローム」MV