L→R 宮腰侑子(Ba&Cho)、竹内裕美子(Dr)、清水加奈(Vo&Gu&Key)、木村順子(Gu&Cho)

L→R 宮腰侑子(Ba&Cho)、竹内裕美子(Dr)、清水加奈(Vo&Gu&Key)、木村順子(Gu&Cho)

【指先ノハク】理屈通りにはいかない
自由なアレンジが、この雰囲気を作り
出している

甘く切ない歌詞やサウンドから、どこか不思議でスリルのある、ひと筋縄でいかない展開を広げていく…その面白味からいつの間にか抜け出せなくなるかも!? “変態系ガールズロックバンド”、指先ノハクが8月26日にリリースする初の全国流通盤ミニアルバム『肴~SAKANA~』について木村順子(Gu&Cho)、宮腰侑子(Ba&Cho)に訊いた。
取材:高良美咲

もともとは2008年11月に前身バンドを結成したとのことですが、当時はどのようなバンド像を思い描いていましたか?

木村
結成の動機は、自分たちのオリジナル曲をライヴで披露したいというコピーバンドの延長でしたが、前身バンドRADITZの時はガールズバンドの代名詞になりたいと思っていました。その後、“RADITZ”から“指先ノハク”に改名したことで楽曲の幅がものすごく広がりました。具体的に言うと、暗い曲が多かったのですが、明るい曲、ポップな曲が増えて、制限を感じずに活動していけるようになったと思います。ただ、結成当時から現在もずっと揺らがないものは“自分たちがカッコ良いと思うものを貫き通す”ということですね。
宮腰
活動していく中で、作曲に対してもライヴに対しても、どんどん自由に表現できるようになりました。今までにないものでも4人でやってみれば“あぁ、こうなるんだ”と思います。でも、“まだまだやれんだろ!”という貪欲な気持ちによってずっと突き進んでいるバンドなので、まだまだ進化し続けると思います。代謝良くいきたいですね。

8月26日にリリースするミニアルバム『肴~SAKANA~』は、そんな指先ノハクにとって初の全国リリースなのですが、どのような作品にしようと考えていましたか?

木村
全国リリースのお話しは2014年頃からあったのですが、ドラムの竹内裕美子が足の手術のために1年間お休みをすることになったんです。でも、4人でないと意味がなかったので復帰したらリリースをすることにしました。そのため、この1年間は待ち遠しかったです。その分、このミニアルバムに対する想いも強く、“これが指先ノハクだ!”と思える一枚にしたいという強い気持ちは沸々とありました。
宮腰
ずっと大切に育ててきたものも、新鮮さも、両方感じる作品にしたいと思っていました。そして、今の“指先ノハク”というバンドサウンド、作曲者の個性、プレイヤーの個性というものを再認識して、制作にとりかかりました。

メンバーそれぞれが楽曲の作詞作曲を行なっていますが、メンバーでかたちにしていく時はどのように?

宮腰
打ち込みで曲を作り、それを聴いてもらって、実際にバンドサウンドに発展させていきます。最終的には作曲者が全ての決定権を握っていますが、長年やってきた私たちだけの感覚と作曲者の意向が合致した“イイ感じ”なものを採用します。木村は感情的な入れ方、雰囲気の作り方を徹底してディレクションしていて、清水はどう歌いたいか、竹内は冷静に楽曲を感じて、こっそりと予測不能のアプローチをしてきますね。各パートの細かいアレンジや音の響き方、コード感、アクセントのポイント、どういうノリを出すのかみたいなことは、私が逐一口を出します。それぞれの役割分担が必要不可欠です。
木村
個々の曲作りの仕方はさまざまですが、バンドメンバーでかたちにしていく時には、自由にアレンジしていい部分とこだわりたい部分に分けながら作り上げています。この段階で、指先ノハクらしさが生まれると思います。自分の曲をアレンジしてもらう時には自分からは出てこないものが生まれる瞬間があるので、それは指先ノハクならではの醍醐味ですね。一番に意識することは、作曲者がどのようなイメージで曲を作ったのかということや、イメージや歌詞に合ったアレンジです。ギターは歌詞がイメージできる、情景が目に浮かぶような寄せ方を心掛けています。あとは、何だかんだ言葉で伝えるのはヴォーカルなので、清水とはその曲に対しての想いやストーリーを分かり合えるまでめちゃくちゃ話します。

今作には7曲が収録されており、これまでライヴ会場限定盤としてリリースしてきた楽曲も複数収録されていますね。

宮腰
選曲はとにかく悩みましたが、指先ノハクを初めて知る人に向けて、ずっと応援してくれている人に向けて、これが今現在の指先ノハクだと分かるような代表曲を選びましたね。音源化されている曲も全て再レコーディング、ミックスをしています。

「なにがし」は“アレ”“コレ”という言葉でテンポよく進んでいくのがコミカルで面白いです。

宮腰
竹内がライヴに復帰する直前、バンドがとにかく苦しい時期に、私が大好きなメンバーの要素をふんだんに取り入れた楽しい曲を作ろう!と思って作りました。リズミカルなライドシンバル、フェイザーをがっつりかけたギターじゃないギター、美しく切ないメロディー、ご機嫌なベース、そして疾走感とコード感から、この曲が90年代のバトル系のアニメソングだったら…とか、そんなことを考えているうちに、指先ノハク至上もっともポップでキャッチーになり、この曲が私たちの音楽性やライヴをさらに自由にしてくれました。私は全楽器パートを作ってから、清水に発してほしいポップでキャッチーな発音を探して、曲を作っています。日本語でも英語でもない意味のない単語から、それに近い日本語を探していくんです。「なにがし」も歌詞からできた曲ではないのですが、“あーでもない、こーでもない”というワードが最初にきた瞬間に、この曲は“なにがし”にしようと決めました。人に伝えることって、ちゃんと名前があるものでも難しいのに、名前のないなんとなくのものから受けた気持ちを、そのまま受け取ってもらうのって難しいなぁって思っていて…それは不可能なことだと思うんだけど、特別な人にはちゃんと分かってほしい。サビの《フリーズ》は話してる時の“えっ?”みたいな、意味が分からなくて固まる瞬間をイメージしてます。“一生懸命話してるのに全然分かってもらえなくて呆れられてしまうんだけど、私はあなたに話を聞いてもらいたいので、どこにも行かないでください”という曲です。あまり押し付けるのは好きではないのですが、すごく共感できるって言っていただける曲で、とても嬉しいです。MV監督の吉田(晃太)さんも楽曲のテーマをよく理解してくださって、楽曲に見事にハマった作品ができました。歌詞も楽しいのですが、キャッチーなのに実はかなり美メロだったり、泣けるコード進行だったり、とにかく各パートの絡み合いがとても面白いので、注目していただきたいです!

「ゲノオワリ」は多彩な展開で、長めの間奏でも飽きさせずに聴かせる楽曲でした。

木村
小説の短編集のような作品にしたいと思い、“夏の終わりと大人の恋の始まり”をテーマに書き下ろしました。あとは、アニメのオープニングだったら…と、映像も思い浮かべながら。Aメロ部分は、20代後半からの女性の恋の“始まり”を夏の“終わり”と対比させて表現してみました。状況は少し複雑で切ないけど、恋は盲目という歌なので、小説を読んでいるような感覚で聴いてもらえたら嬉しいです。間奏は、恋した時の浮かれ気分を宇宙に飛んでいくことに例えています。妄想の中で宇宙旅行中です(笑)。長めの間奏ですが、短くしてしまったら絶対この感覚に陥れないと思ったのでこだわりましたね。爆音で聴いていただけると本当に宇宙にいるような気分になると思います。…行ったことはないんですが(笑)。ただ単純に、ふたりの結末はまだ全然見えないけど、年齢とか関係なく恋したら浮かれちゃうよ、という曲なので、楽しい曲です。特に、女性には共感してもらえる一曲になったんじゃないかなと思います。

「行方入り」や「相席」のように、どこか不思議でスリルのあるひと筋縄でいかない展開を、歌詞やサウンドから広げていくのがこのバンドの面白味ですよね。

宮腰
ちょっとダークで、ひと筋縄じゃいかない展開、不協和音などの音のぶつかり合い、この雰囲気は指先ノハクの得意分野だと思います。私たちはまったく暗い曲のつもりでやっていないんですけど、清水の歌声と、楽器陣の理屈通りにいかない自由なアレンジが、この雰囲気を作り出しているのかもしれません。「相席」はこれまでにないダンスミュージック的アプローチをしてみたくて書き下ろしました。音と音の隙間がとても気持ち良いんです。そして、コードの絡まり方とリズムの絡まり方がすごいことになっていて、非常に妖しげで、最高に踊れる曲です。普段は可愛らしくあどけない清水を、ちょっと粋な大人の女性にできたと思います。感情的で切ないのも好きだけど、こっち系も絶対合うなと思って。とにかく歌い方にこだわりました。“粋”に“艶やか”に、そして“まぁ、世の中こんなもんでしょ?”みたいな、ちょっとフンとした感じをオーダーして、歌ってもらいました。「行方入り」はセッションでできた曲で、清水の“行方不明”をテーマにした歌詞に、事件とかサスペンスドラマみたいなものをイメージして演奏しています。ライヴの感じがそのまま出るよう意識しました。ベースとドラムはスタジオやライヴのようなフォーメーションで一緒にレコーディングしましたね。イントロでギターがシャキーーーン!って言ってるんですけど、刀を抜いた“必殺!”みたいな感じで、とても気に入っています。

そんな中、どこか哀愁が漂う「どうしようがないこと」は、バンドの多彩さを印象付けてくれる楽曲だと思いました。

木村
「どうしようがないこと」は、私の根本にあるものですね。私が生きている意味、音楽をやっている意味、作詞作曲する意味、ライヴをする意味…全てがここにつながります。このことに気が付いた瞬間があって、そこからそれをちゃんと伝えたいと思い楽曲にしました。ひと言で言うと“愛の歌”。一番聴いてほしいのは子供、さらに言うなら小さい頃の自分に聴かせたくてできた曲でもあります。子供でも分かるように歌詞カードは全部ひらがなで、メロディーラインも聴きやすくしました。綺麗事ばかりじゃないけど、誰かを愛する、愛されるって、こういうことなんじゃないかな?と自分なりの愛をこの一曲に詰め込みました。ほんの少しでいいので、この曲が、指先ノハクが、誰かの居場所になればいいなと思っています。ギターは心臓の音、楽曲全体は自分の中の感情や内なる部分を表現していて、全体でのクレッシェンドやいろいろな音を絡めることで感情の起伏を表現しました。この曲があることでただのロックバンドじゃなく、深みのあるバンドになると言っていただけたこともあるので、指先ノハクにとっても楽曲の可能性が広がる一曲になったんじゃないのかなと思います。

今作の最後をメンバーの楽しそうな乾杯の声で締め括る「3DK」は、“肴~SAKANA~”というアルバムタイトルにちなんで?

宮腰
これは、ライヴ会場限定盤ミニアルバム『てんこちない』の1曲目に収録されている「4DK」の派生で、“何、今の!?”みたいな使い方をしてます。今作でも1曲目に入れる予定でしたが、“肴~SAKANA~”というアルバムにもっと宴会感が欲しい!ってことで、実際に深夜のスタジオのテーブルを4人で囲んで、わいわいと宴会のレコーディングをしました。本当に缶を開けたり、グラスに注いだり、飲んだり、乾杯したりしています。でも、実際はお酒ではなく缶ジュースで、みんな超胡散臭くて(笑)。“ぷはー!”みたいなリアルな感じを出すのが難しかったです。
木村
もともとライヴでのSEやつなぎの部分で演奏をしていた曲です。今作ではボーナストラック的な要素で一番最後にしました。「どうしようがないこと」でふわぁっと感動的にアルバムを締め括るのではなく、やっぱり私たちはロックバンドなので最後はカッコ良く締めたいと思って。わちゃわちゃとしていることで、指先ノハクらしい!って思ってもらえたら嬉しいです。

アー写やジャケ写などのアートワークも“肴”に関連したものになってますね。

木村
ジャケットは私が描いたのですが、「なにがし」「ゲノオワリ」の歌詞に“月”が出ていたので月を描きたいと思っていました。また、4人とも共通して好きなものというのがあまりないのですが、私たちはよくお酒を飲むので“月からビールが出てきたらやばいな(笑)”と勝手にイメージを膨らませたり遊び心も入れつつ、あのようなアートワークが完成しました。あとは、メンバーの誰かを描くよりも架空のキャラクターを作りたかったんです。作曲者はそれぞれだけど、まとめたら指先ノハクの楽曲なので、4人の集合体として“肴ちゃん”という架空の女の子を登場させました。アルバムのタイトルを決めたのは最後で、今作は名刺代わりということもあって、“私たちらしいのは…酒?”ということであのタイトルになりました。ぜひ、お酒の肴に聴いてください。
宮腰
娯楽や会話の肴って、噂話みたいな意味もありますけど、この作品は若い頃から大人になって今思うことみたいなのが詰まっているので、自分の歴史や当時の気持ちを聴いてる人に語りかけるような…そして、いつの間にか病み付き!? クせになる!! 止まらない!!みたいな、そんな作品になればいいですね。

それぞれ、今作の中で思い入れのある楽曲があれば教えてください。

宮腰
「放課後」は4年ぐらい前からあるもっとも古い曲で、過去にも音源化されています。この曲は本当にいろんな場所、場面で演奏してきました。たくさん向き合って育ててきた大切な曲です。指先ノハクの歴史をひしひしと感じながら制作しました。過去のいい意味で荒っぽい音源から、しっかりと洗練されたものになったと思います。
木村
活動が長いとたくさんありますね…私は2曲あります。1曲は「行方入り」。この曲はセッションでできた曲なんですが、裕美子が足の手術をしてリハビリをして、足に気を使いつつ1年振りにスタジオに入った時にまずみんなで合わせたのが、これでした。言葉では説明しづらいのですが、待ってて良かった、この4人じゃないと出せない音があるならずっと出し続けたいと思った瞬間でした。その後、トイレに駆け込んで密かに号泣しました(笑)。あとは、「どうしようがないこと」。ライヴ会場限定シングル「行方入り/どうしようがないこと」とミニアルバム『てんこちない』にも収録されているのですが、思い入れが強すぎてメンバーに泣きながら訴えて今作に収録できることになりました(笑)。それくらい、たくさんの人に聴いてほしい大事な曲なんです。

出来上がってみて、どのような一枚になったという実感がありますか?

宮腰
それぞれが作った曲にその人らしさがよく出ていて、それがバランス良く入っている作品になったと思っています。寄り集まって非常に指先ノハクらしい作品になりました。“肴”というテーマで上手くまとまったと、手応えを感じています。
木村
名刺代わりのミニアルバムになりましたし、これからが楽しみと思ってほしいです。

リリース後には全国を回る『肴ちゃんツアー!』を控えていますね。

宮腰
ツアーをやることで、またバンドが変わるだろうし、成長すると思っています。私たちはいつも“さぁ、巻き込もう! 戦車ーー!!!!”と団結して(?)ステージに向かうのですが、ライヴを観ている人にどれだけ指先ノハクの音楽を放てるか、興奮の渦に巻き込めるか、一緒に楽しめるか…そういったことをさらに挑戦していこうと思います。音源だけでは分からない指先ノハクというバンド、曲の世界観を、ダイレクトに感じていただきたいです。今回は初めて行くところもあるので、ファイナルまでが本当に楽しみです!
木村
指先ノハクの渦に巻き込めるようなライヴをしたいです。目指すのはライヴバンドですし、ライヴでは楽曲以上にみなさんを虜にできると思います。初の全国流通で知ってもらえる方も多くなると思うので、いろいろな方とお会いできるのもとても楽しみですね。

最後に、リスナーへ何かメッセージがあればひと言お願いします。

宮腰
指先ノハクの、過去最高傑作ができました! とても味の濃い肴です。非常にさまざまな要素が入っておりますが、これが指先ノハクだけど、これだけが指先ノハクではありません。ぜひ一度、聴いていただきたいです。そして、これからも期待していてください!
『肴〜SAKANA〜』
    • 『肴〜SAKANA〜』
    • YBSK-001
    • 2015.08.26
    • 1620円
指先ノハク プロフィール

ユビサキノハク:2008年11月に前身バンドを結成。11年11月にバンド名を“指先ノハク”に変更し、活動を開始する。枠に縛られない自由な発想で独自の音楽性を築き上げ、各メディアで話題を呼ぶ。15年8月に初の全国流通盤ミニアルバム『肴~SAKANA~』をリリースした。指先ノハク オフィシャルHP

OKMusic編集部

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