ザ・モップスの
驚異的な先鋭サウンドが遺る
『サイケデリック・サウンド・
イン・ジャパン』

海外で旬だったロックを一早く輸入

前置きが長くなってしまい、申し訳ない。そんな経緯でザ・モップスを知ったわけで、“日本で最初のサイケデリックロックバンド”と言われても正直言ってピンと来なかったところはある。「たどりついたら~」が唯一の接点だったので、フォークロックバンドというと語弊があるが、ファーストインプレッションはそれに近いものだったと思う。だが、1stアルバム『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』を聴いて、その認識は間違いだったというか、遅れるにもほどがあるほどに遅ればせながら、相当にぶっ飛ばされた。「たどりついたら~」は「たどりついたら~」で十分にカッコ良いことは間違いないのだけど、『サイケデリック~』にはそれとはまた別種のカッコ良さがある。文字通りのサイケデリックロックを見事にバンドに取り込んでいるのである。そう言うと、“カバーが多いのでそりゃそうだろう”と突っ込む先輩方もいらっしゃることだろう。それもその通りで、『サイケデリック~』は収録曲の半数がカバーである。以下がそれらで、右がそれぞれのオリジナル。

M2「サンフランシスコの夜」→Eric Burdon & the Animals「San Franciscan Nights」
M4「孤独の叫び」→The Animals「Inside Looking Out」
M5「あの娘のレター」→The Box Tops「The Letter」
M7「あなただけを」→Jefferson Airplane「Somebody to Love」
M9「ホワイト・ラビット」→Jefferson Airplane「White Rabbit」
M11「ハートに火をつけて」→The Doors「Light My Fire」

「Inside Looking Out」だけが1966年の初出で、あとは全て1967年リリース。ザ・モップスは1967年にホリプロとマネジメント契約して、同年11月にデビューし、『サイケデリック~』を1968年4月にリリースしている。しかも、[デビューに際しては「日本最初のサイケデリック・サウンド」を標榜したが、これは1967年夏、アメリカ旅行でサイケデリック・ムーヴメントを目の当たりにしたホリプロ社長・堀威夫の発案を、メンバーが受け入れてのものだった]というから、スタッフワークも相当に早ければ、ザ・モップス自体の動きも早く柔軟だったと言える([]はWikipediaからの引用)。しかも、短期間で忠実になぞるだけでも大したものだが(M2イントロでの口上(?)はそれに当たるだろう)、単なるカバーに留まらず、オリジナルに敬意を払った上で、自らのエッセンシャルを注入している点はまったくもって聴き逃せないところだ。そこにロックバンドとしての自らの方向性を示していることが感じられる。

音数の差でそれがはっきりと分かるのはM5とM9だろう。オリジナルではブラスとストリングスを配しているM5ではそれを廃してバンドサウンドだけで楽曲を構築する一方、原曲ではバンドの音のみのM9ではストリングスを入れている。M5は派手過ぎず、M9では逆に少しばかり装飾を足した感じだろうか。ザ・モップスのサイケ観を垣間見れるようでもある。バンドのポテンシャルを誇示しているのはM4だろう。M4では原曲同様の長尺の間奏をザ・モップス独自の解釈で演奏しているM11以上に挑戦的であり、野心を感じさせるサウンドを聴くことができる。

聴きどころは中盤。ビートレスになるだけでも十分に独自のアレンジをぶっこんでいることが分かるし、ヴォーカルはまさに“孤独の叫び”という感じがして興味深いのだが、ベースラインも実にいい。パッと聴き、Deep Purple「Black Night」を彷彿する人もいようが、あれは1970年が初出なので、それは明らかに違う。1962年のRicky Nelson「Summertime」と見る向きもあるが、多分それも違うと思う。時期的に考えると、The Blues MaGoos「(We Aint Got)Nothin’Yet」のリフを参考にしたのが正しいのではないかというのが筆者の見立てだ。同曲は本作収録のほとんどのカバー曲と同じく1966年リリースである。さまざまなサイケデリックロックを聴く中でThe Blues MaGoosも聴いていたと考えるのが自然だろう。まぁ、元ネタがどうであるかはこの際、重要ではなく、M4ではザ・モップスがサイケデリックロックの要素を実に意欲的に取り込んでいたことが強調されるように感じるし、バンドの真摯さと先見の明を見るのである。

OKMusic編集部

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