『3』に垣間見える
悪玉っぷりに思うキリンジの
ロックバンドとしての肝

『3』('00)/キリンジ

『3』('00)/キリンジ

堀込高樹率いるKIRINJIが今年いっぱいでバンドとして活動を終了して、メンバーを固定せず、[堀込高樹を中心とする変動的で緩やかな繋がりの音楽集団(現在のメンバーも含まれます)として活動する]と発表([]は公式サイトから引用)。このコロナ渦で、当初2~3月に予定されていた現メンバーでの最後の全国ツアー『KIRINJI TOUR 2020』は延期となっているものの、そうしたKIRINJIの状況変化に加えて、今月は堀込泰行の新作『GOOD VIBRATIONS 2』もリリースされたことだし…ということで、今週の邦楽名盤は彼らの作品の中からピックアップしてみた。

不滅の名曲「エイリアンズ」

キリンジ(現KIRINJI)の代表曲と言えば「エイリアンズ」だし、その「エイリアンズ」が収録されているのが3rdアルバム『3』なので、当コラムとしては『3』をキリンジの名盤としてチョイスした。まず、このシングル「エイリアンズ」。2017年にLINEモバイルのCMソングに起用されたことで(のんがカバー)、発表から15年以上を経て再びスポットが当てられた…というような言い方をされているようだが、失礼を承知で記すならば、“再びスポット”との言い方は正確ではなかろう。シングルがリリースされたのは2000年の時点では、チャートリアクションは最高位42位で、登場回数もわずか2回だけだったというのが公式記録である。正直言ってシングル曲としてヒットしたとは言い難い。ゆえに15年以上を経て初めてスポットが当たったと言ってもいいのではないか──そう思われる貴兄もいらっしゃるかもしれないが、それも違う。2017年以前も、タイアップこそなかったものの、この楽曲は多くのアーティストにカバーされている。有名なところでは、秦 基博がシングル「アイ」(2010年)のカップリングに収録したものや、ハナレグミがカバーアルバム『だれそかれそ』(2013年)に収録したバージョンだろうか。音源にはなっていないが、田島貴男や女優の杏、星野源などがカバーしており、業界内で「エイリアンズ」はずっと名曲認定されていたと言える。チャートリアクションがどうだったかとか何万枚売り上げたかとかにかかわらず、いい楽曲は15年経とうが20年経とうが、闇に葬られることはないのである。

実際、『3』収録M6「エイリアンズ」を聴き直してみても極めて優秀な楽曲であることが分かる。まず、そのメロディーの秀逸さは誰もが認めるところなはず。だからこそ、今まで多くのアーティストが歌いたいと希望したのであろう。たおやかでありつつ、しっかりとキャッチーなサビも印象的なのだが、サビへとつながるBメロもいい仕事をしている。ドラマチックさを助長しているのは間違いなくBメロの功績だと思う。サビ終わりに転調する箇所があるのだが、ここには歌詞がなくてスキャットにしているという巧妙さも心憎い。仮にあそこに歌詞を置いてちょっと尺を長めにとっていたとすると、作者がそう意図せずとも“ここは重要ですよ”と受け取られかねないパートになって、少なくとも楽曲の世界観は今と違ったものになっただろう(と勝手に解釈)。サウンドには派手さはない。現在の流行歌に比すれば地味となるのは当然としても、当時でも地味な部類に入るだろう。これが発表された2000年と言えば、[前年にブレイクを果たした宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、椎名林檎、aiko、さらに倉木麻衣らを加えた女性ソロシンガーの全盛期]だった年である([]はWikipediaからの引用)。また、つんく♂プロデュースによるモーニング娘。関連もヒットを連発。その一方で、この年にはサザンオールスターズの「TSUNAMI」、福山雅治の「桜坂」といったミッドチューンが特大ヒットを記録しているから(この2曲が2000年の年間シングルチャートの1、2位)、決して当時の流行歌の全てが煌びやかなサウンドをまとったものばかりだったわけでもなかろうが、それにしても「エイリアンズ」はどう聴いても派手さはない。2番からギターがやや強めに聴こえてくるものの、どのパートが突出しているわけではない。そのサウンドは全体にかなり抑制が効いている。これは明らかに意図的であろう。アルバム『3』全体を通して聴くと余計にそんなふうに思う。

ロックバンドらしい多彩さ

アルバム『3』は全13曲入り。それだけに…と言っていいのか、その内容は実にバラエティー豊かなのだ。キリンジはバンドであるわけで、それも当たり前と言えば当たり前のことなのだが、もし「エイリアンズ」から『3』に入っていたとすると、(少なくとも当時は)若干戸惑うリスナーがいた気もする。バンドを公言していたとは言え、この頃のキリンジのメンバーは堀込高樹、堀込泰行だけである。しかも、当時、制作された「エイリアンズ」のPVに映るはギターを弾きながら歌うふたりの姿のみで構成されている。ゆずのメジャー進出が「エイリアンズ」発売の2年前の1998年で、この時期、二人組のフォークグループがわりとデビューしていたので、あのPVを見た人の中でキリンジ=フォークデュオと誤解した人がいたとしてもおかしくない作りである。これも意図的というか、若干アイロニカルな意識もあったのかと思うのだが──話がズレたので軌道修正すると、アルバム『3』は「エイリアンズ」が最も地味なくらいで、全体的には躍動感あふれるバンドサウンドを聴くことができる。以下、ザっと見ていこう。

M1「グッデイ・グッバイ」はその年の4月にリリースされた4thシングル。Chicagoの「Saturday in the Park」を彷彿させる軽快な鍵盤とブラスが全体を引っ張り、後半に進むに従ってベースがうねりを増してグルーブ感を醸し出していく様子がとてもいい。お洒落感だけでなく、硬派なバンド像を伺わせるに十分な楽曲である。M2「イカロスの末裔」はシングル「エイリアンズ」のカップリング曲でもあったソウルナンバー。こちらもブラスがあしらわれており、主旋律からするとポップというよりもスウィートと言ったほうがぴったり来るような印象だ。元ネタは“サルソウル”だという。“サルソウル”とは1974年にニューヨークで設立されたレーベルの名称。その名の通り、サルサとソウルを融合させたディスコナンバーを輩出してきた(ちなみに電気グルーヴの「Shangri-La」のサンプリング元として知られるSilvettiの「Spring Rain」はその“サルソウル”からのリリースである)。キリンジにダンスミュージックのイメージを持つ人は少ないのではないかと思うが、M2「イカロスの末裔」は彼らが意欲的にさまざまな要素も取り入れてことを証明する興味深いダンスチューンではあろう。3rdシングルでもあったM3「アルカディア」はミドルテンポでメロディーはマイナー調だが、ざらついたギターの響きが渋くてカッコ良い。歌詞にある通り、まさにブルースの面持ちだ。アウトロがシングル曲にしてはやや長尺な印象はあるが(約5分半の全タイム中、1分半がアウトロに当てられている)、2本のギターとリズム隊が重なり合っていく様子がスリリングで、ここは圧倒的に聴きどころだし、バンド側にしてみれば聴かせどころ、見せどころとしていることは間違いない。

続くM4「車と女」はチャカポコなギターカッティングが冴えわたるファンキーチューン。楽曲タイトルに呼応してか加速していくような疾走感にあふれ、バンドアンサンブルがこれまたグイグイと極めてグルービーに迫る。これまた硬派で、ロックバンド特有の荒々しさをのぞかせる。一方、“ヒール”と読むM5「悪玉」は、そのタイトルからは想像できない軽快さ。メロディーもサウンドもフレンチポップスのような、これまたスウィートな感じで、そこに《“破壊の神シヴァよ、血の雨を降らせ給うれ!”》なんて歌詞が乗っているのは、対位法な発想から生まれたものかもしれないが、それを通り越してほとんどシュールだ。

アルバム『3』はそこからM6「エイリアンズ」へと連なっていく。アナログ盤ではM6「エイリアンズ」でA面が終了するわけだが、ザっと振り返った限りでも似たような楽曲が存在しないことはよく分かるだろうし、抑制の効いた、落ち着いたサウンドはむしろ少ないことも分かってもらえると思う。

M7以降、アナログ盤でのB面もそうで、以下は先ほど以上にざっくりと説明すると──。サイケデリックなインストのM7「Shurrasco ver.3」。ジャジーでブルージーなM8「むすんでひらいて」。“遅れてきた渋谷系”の形容に相応しいポップチューンM9「君の胸に抱かれたい」は5thシングル。M10「あの世で罰を受けるほど」はオールドスタイルなR&R。兄・高樹がメインヴォーカルを務めているM11「メスとコスメ」は不穏なファンクと言ったらいいだろうか。M12「サイレンの歌」はM13「千年紀末に降る雪は」はともにThe Beatlesが色濃く感じられるナンバー(前者は後期、後者は中期だろうか)。ざっくりと言ったものの、それにしてもほどがあるざっくりさであるが、大きな間違いはないと思う。その躍動感あるサウンドはバンド以外の何物でもないし、その多彩さは特筆すべきものである。キリンジは形態としては二人組ではあるものの、まごうことなきロックバンドなのである。

OKMusic編集部

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