『爆裂都市(BURST CITY)
オリジナルサウンドトラック』は、
陣内孝則、大江慎也らが
自ら音をかき鳴らした規格外の劇伴

『爆裂都市(BURST CITY)オリジナルサウンドトラック』('82)/V.A.

『爆裂都市(BURST CITY)オリジナルサウンドトラック』('82)/V.A.

先月末から各地で大型フェスが開催されているこの時期。当然のように単独のコンサートも少ないし、ニューアルバムのリリースも減る傾向にある(と言っても、当コラムで取り上げるような中堅以上のアーティストたちのそれが少ない)。というわけで、今週はちょっと遅きに失した感がなくもないが、1982年3月に公開された映画『爆裂都市(BURST CITY)』がちょうど40周年を迎えたということで、そのオリジナルサウンドトラックを取り上げようと思う。映画のサントラはほとんど取り上げたことがなかったように記憶しているし、事情を知らない若い読者は“何でサントラ?”と思うかもしれないが、ロックミュージックと密接な関係を持った映画なのである。まずは、今もカルトムービーとして根強いファンを持つ映画の概要から説明しよう。

“映画の暴動”と呼ばれる
カルトムービー

監督の石井聰亙(現:石井岳龍)氏は製作発表の席で「これは暴動の映画ではない。映画の暴動だ」と言ったという。公開から40年を経た今観ても、そう言い放ったことがよく分かるほどに、ものすごいエネルギーを感じさせる映画である。映画には本来、ストーリーや演出、演技といったものが備わっている。この『爆裂都市 BURST CITY』という作品は、“とにかくこれを創る!”という熱情が暴徒と化して、そうしたセオリーのようなものを壊しにかかっているような作品ではないかと考える。小奇麗なテーマや小難しいメッセージなんてものは端から度外視していたのかもしれない。“100円レンタルで観たが、100円を返してもらいたい”と酷評するAmazonのレビューを見かけたが、その気持ちも分からいでもない。普通の映画の規格からいろいろと逸脱している作品ではある。人生模様を冷徹な視線と丁寧な技法で創り上げたと言われる、小津安二郎監督『東京物語』辺りの対極だろう。その極北にあると言っていいのではないかと思う。

登場人物たちの背景や相関関係が分かりづらい。正直言って、一回観ただけでは掴み切れないのではないかと思う。観ている側にそれを想像させる箇所もなくはないけれど、従来の映画にとらわれていない手法が連続していて、我々になかなかその余地を与えてくれない。よって、物語も一応あるにはあるようだが、少なくとも簡単にカタルシスを得るような展開は訪れないと言っていい。近未来と言えば聞こえはいいが、そこから退廃だけを抽出したような美術や衣装。メインの役者たちはほとんど俳優ではないため、演技らしい演技は望むべくもない。台詞らしい台詞もなくはないが、強く印象に残るのは登場人物たちの叫び声のほうだ。それらを手持ちのカメラで撮影しているので、概ね映像はブレブレな上、あえて8ミリで撮影したことで相当に粗い画面も多々ある。細かくカットを割った──というか、短くカットをつなぎ合わせたシーンもあって、何と言うか、観ているこちらの気持ちも忙しない。そんなふうに映画の概形を分析するだけでも、ローポジションの固定カメラでとらえた笠智衆がゆっくりと原節子に語り掛けるような映画と、最も離れたところに位置する作品であることが分かる。

メインの役者たちはほとんど俳優ではないと書いたが、そこまで役者経験がなかったミュージシャンが大半を占めている。ザ・ロッカーズの陣内孝則(Vo)、鶴川仁美(Gu)。ザ・ルースターズの大江慎也(Gu)、池畑潤二(Dr)。町田町蔵(現:町田康)。そして、遠藤ミチロウ(Vo)、タム(Gu)、杉山晋太郎(Ba)、乾純(Dr)という1981年頃のザ・スターリンのメンバー。この時すでに役者として注目されていた泉谷しげるも、もともとはミュージシャンとして世に出た人である。話は前後するが、陣内孝則は『爆裂都市 BURST CITY』が映画初出演。ザ・ロッカーズは本作公開後の1982年6月に解散しており(のちに再結成)、陣内が俳優業を本格化させたのは本作の後だ。その他、ミュージシャン以外でも、コント赤信号の3人や作家の戸井十月(戸井氏は石井監督、泉谷と並んで本作の原案を担ったひとりでもある)、プロレスラーの上田馬之助、芸術家の篠原勝之、イラストレーターの南伸坊、ヴィジュアリストの手塚眞らもキャストに名を連ねている。麿赤兒や室井滋など、役者もそれなりに配されているものの、メインどころは上記メンバー。今となれば主人公が陣内孝則という映画は不思議でも何でもないけれど、前述の通り、これが彼のデビュー作である。配役だけも石井監督は普通の映画を作ろうという気がなかったことはよく分かる。

ちなみに、この時にはザ・ロッカーズもザ・ルースターズも町田町蔵のINUもメジャーデビューしていたが、ザ・ロッカーズは前述した通り、公開後に解散(鶴川はその前年に脱退)。INUは公開前に解散している。なので、バンドを売り込むために彼らをキャスティングしたわけではなかったことも分かる。ザ・スターリンは公開年の7月にメジャーデビューしているけれど、劇中での役どころとその顛末を考えれば、これもまた彼らを売り込もうとかいう意図がなかったこともよく分かる。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着