ケラリーノ・サンドロヴィッチ
meets 秋元 康で創造!
彼らにしか成し得なかった
歌謡曲が並ぶソロ作『原色』
数多くのユニットで活動
もちろん、彼は今も精力的に音楽活動を継続しており、2015年にミニアルバム『lost and found』を、2016年には有頂天で26年振り完全新作アルバム(しかも2枚組!)『カフカズ・ロック/ニーチェズ・ポップ』を発表し、ここ数年は毎年ライヴも欠かしていない。今年も3月と6月に『コロナ禍の有頂天』と題したライヴを開催している。有頂天以外では、ムーンライダーズの鈴木慶一とのユニット、No Lie-Senseで2020年に『駄々録〜Dadalogue』を発表したのが記憶に新しい。そして、今年、ソロとして“KERA”名義でのカバーアルバム『まるで世界』をリリースしたばかりだ。
“今も精力的に…”とは言ったが、むしろ、最近さらに音楽活動が活発になってきた印象がある。振り返ってみれば、有頂天、No Lie-Sense、ソロを除いても、彼はさまざまなユニットとして世に出てきた。LONG VACATION、ケラ&ザ・シンセサイザーズ、秩父山バンド、空手バカボンなどがその代表的なもので、他にも[伝染病、輪廻、クレイジーサーカス、健康、B-MOVIE、此岸のパラダイス亀有永遠のワンパターンバンド、POP MUSIC RETURNS、Jトンプソン商会、エレキバター、ザ・ガンビーズ]などがある([]はWikipediaからの引用)。こうなると、“今も…”とか“最近さらに…”ではなく、もともと自らの創作活動においてはワーカホリック気味な側面を有した人なのであろう。
そんなふうに、さまざまなユニットでも活動しているケラゆえに、彼の音楽性をひと口で語るのは困難だ。大きく括ればニューウェイブということになるだろうし、有頂天は確かにテクノポップとパンクを融合させた感じが強いだろうが、それでチューリップの「心の旅」をカバーしていたりするので、自称“ヘンな音楽の殿堂”という形容が相応しいとは思う。No Lie-Senseで言えば、ケラ、鈴木のふたりで“さほど意味のない音楽をやろう”と結成されたということで、実際、その音楽はひと筋縄ではいかない…というか、強いて言えばインプロビゼーションに近いものに仕上がっている印象だ。ソロ作品においても、1980年代半ばには有頂天に通じるニューウェイブをやりつつ(というか、この時期はソロも有頂天もシームレスだった印象)、近作の『Brown, White & Black』(2016年)と『LANDSCAPE』(2019年)ではジャズをやり、そして、最新作『まるで世界』ではさまざまなアーティストの名曲をデジタルからアカペラに至るまで奔放なサウンドでカバーしている。バンド、ユニットに限らず、作品毎に何が飛び出すか分からない…というのはケラの基本的スタンスなのかもしれない。
そんなソロ作品の中でも『原色』は大分、異彩を放つアルバムと言っていいのではないかと思う。それこそカバー曲も多いので、楽曲を手掛けたのがケラ以外であることは珍しくはないのだが、『原色』収録曲はカバーとかではなく、全てオリジナル。それでいて、ケラが作詞作曲を担当していないのである。1980年代半ば、ナゴムレコードで発表したソロ作品ではほぼケラ自身が作詞作曲を手掛けているので、これはかなり稀なケースだ。しかも、プロデューサーが秋元 康で、作詞も同氏で、作曲:井上大輔、編曲:船山基紀。“THE歌謡曲”と言うべき布陣で挑んだアルバムなのである。