『人間プログラム』にある
多様性と生々しさは、
THE BACK HORNのテーマ
“KYO-MEI”の原点
1998年結成、2001年メジャーデビュー
つまり、こう言っては何だが、THE BACK HORNというバンドはこの20年間、作品リリース、ツアー等の他に特筆すべき項目がないのかもしれない。当方は彼らの活動をつぶさにチェックしてきたわけではないので、もしかするとファンならば誰でも知っているようなトピックがあって、それがサイトには載せられていないだけかもしれないのだが、少なくとも彼らは頻繁にテレビ番組に出たりしている印象もないので、何かトピックがあったにせよ、それは音源かライヴに付随するものではなかろうかと想像してしまう。これを以てストイックと形容してしまうのは短絡的ではあると思うが、THE BACK HORNには余分なものを削ぎ落とした、言わばアーティストとしての体脂肪率の低さみたいなものを感じたところだ。
20年間、歩みを止めることなく活動
躍動感あふれるダイナミックな音像
デビューアルバム『人間プログラム』を聴き、そんな思いも強くした。とにかくエモーショナルな作品である。ボーカルはもちろんのこと、全パートが咆哮しているかのような音を響かせ、それが生物のように絡み合う。一般的にはヘヴィロック、オルタナに分類されるものだろうが、そう単純なものではない気はする。それはM1「幾千光年の孤独」からそうで、ファンキーなギターリフ、ベースがグイグイと楽曲を引っ張る様子は、パッと聴き、所謂ミクスチャー系ラウドロックを思わせるが、サビはややジャジーというか、ブルージーな雰囲気もある。デビューシングルM3「サニー」も同様。重いビートとザクザクとしたギターから始まり、ヴォーカルが重なるパートはスカに転ずる。緩急やメリハリ…と形容するのは少し違う感じだが、躍動感にあふれている。M4「8月の秘密」、M6「ミスターワールド」辺りにもそうした表情があり、そのダイナミズムは極めてロックバンドらしいと思う。
“情緒的”にエモーショナルなサウンド
しかも、ベーシックはしっかりとバンドサウンドでまとめられているのがとてもいい。それこそ、M1「幾千光年の孤独」とM11「夕焼けマーチ」をそのスタイルだけで比較したらひとつのバンドがやるようなものではないと思われるかもしれないが、その幅広さにバンドのキャパシティーの広さがシンクロする。“エモーショナル”という言葉を使うと感情的、直情的と受け取られるかもしれないが、そうした狭義な意味ではなく、彼らの場合、“情緒的”と広義に捉えた方がいいと思う。『人間プログラム』はその好例でもあろう。歌メロは和風であったり、フォーキーではあったりするが、それらをバンドサウンドと融合させているM7「ひょうひょうと」やM10「空、星、海の夜」にもその側面を見ることもできる。この辺りは、いろんな表情、感情があってこそ、人であるという、ある意味で真っ当なメッセージが含まれているようでもある。
生々しくもさまざまな表情を見せる歌詞
《背中に焼けついた十字架》《顔のないキリストが泣いてる》《羽根のない道化師》《太陽のたてがみが揺れてる》《モノクロームの世界に/朝日はもう昇らない》(M1「幾千光年の孤独」)。
《白鳥になれなかったバレリーナが/籠の中 ヒステリックに踊る夜》《血塗られたロマンスは/感傷まみれ 吐き気がするほど/マリーアントワネットの様に気高き/ブタが啼いてるぜ》(M2「セレナーデ」)。
THE STALIN辺りを源流とするパンク寄りのV系が好みそうな、美醜をない交ぜにしつつ、絵画的に落とし込んだ比喩表現がある。
《僕ら 有刺鉄線を越え 何も知らないままで/夢見るように笑ってた/ここから見下ろす景色が 世界の全てと思っていた》(M3「サニー」)。
その一方で、比喩は比喩であるものの、極めて生々しい同時代的な物言いがあり──。
《黒こげ ぼうくうごう/秘密の夢見たね》《大人は やさしい顔/すべてを奪っていく》(M4「8月の秘密」)。
時代を超えた、言霊とも言える内容もある。
《所詮この命 意味などない》《時が来たのなら 命などくれてやる》《果て無きことは知っている 俺に時間がないことも/生きることに飢えている だから生くのだろう》《やがては体朽ち果て 生まれ変わるとしても/俺がここに生きた事 忘れはしないだろう》(M7「ひょうひょうと」)。
《空、星、海の夜 行き急ぐように 身を焦がして/このまま生くのさ 強く望むなら/歌が導くだろう》(M10「空、星、海の夜」)。
ストレートに自らの存在理由を吐露しているかのようなものもあれば──。
《泣き顔 後悔/もう見たくないよ/思い出 壊して/明日へ行く/ららら 時間を超えてゆけ/オレンジの景色の中/置いてゆくのは何もない/涙も連れてゆけばいい/ららら みんなが笑ってる/ららら 僕も笑ってる/憂鬱な毎日なんて/笑って吹きとばせばいい》(M11「夕焼けマーチ」)。
前向きな普遍的メッセージと捉えられるものもある。
ここでもまた人間らしさを感じてしまうが、加えて、ラストに向かうに従って比喩が減り、言葉が分かりやすくなっていくので、そこに何かのストーリーを見い出すこともできそうだ。歌詞は菅波栄純(Gu)が書くことがほとんだというが、彼はよりリアルな歌詞を書くために渋谷の路上に寝泊まりしたことがあるそうである。ストレートにその意味が分かるようなタイプばかりではないものの、そこに独特の生々しさがあることは誰もが認めるところだろうが、その秘密はそんな作家性にもあるのだろう。THE BACK HORNには“KYO-MEI”というテーマがあり、“聴く人の心をふるわせる音楽を届けていくというバンドの意思”が掲げられているともいうが、楽曲の多様性も生々しさもその必要条件ではあったとも思う。
TEXT:帆苅智之