【ライヴアルバム傑作選 Vol.4】
斉藤和義の弾き語りライヴの良さが
凝縮された『十二月』

『十二月』('99)/斉藤和義

『十二月』('99)/斉藤和義

今週は4月12日にニューアルバム『PINEAPPLE』をリリースしたばかりの斉藤和義の過去作をピックアップ。斉藤和義はオリジナルアルバムだけでも今作を入れて22作も発表しているし、過去には『WONDERFUL FISH』を紹介しているので、“さて、何を紹介しようか?”と迷っていたのだが、そう言えば、今年からはコーナー内コーナーとして【ライヴアルバム傑作選】を始めたことだし、“斉藤和義のライヴアルバムを紹介しよう!”と思い立った。だが、ディスコグラフィーを見てみると、何とライヴ盤だけで14作もリリースされていることを初めて知った! う~む…こういう時には、当コラムでよく使う“デビュー作にはそのアーティストの全てがある”説に従おう。ライヴアルバムの1stである『十二月』を選んでみた。

今も続く年末の弾き語りツアー

この『十二月』というアルバムを聴いて、斉藤和義というアーティストのぶれのなさを痛感したところがある。まず“十二月”というタイトル。ファンならばよくご存じのことと思うが、これは弾き語りのライヴツアーにおいて今も使用されているものである。昨年も『弾き語りツアー「十二月〜2022」』が2022年10月から今年2月まで開催された。ツアーがジャスト12月だけに開催されるだけでなく、12月に開催が差し掛かる時はこのタイトルとなっているようである。

興味深いのは、弾き語りでも12月に重ならない時は“○月”と題してないことで、12月以外で開催した弾き語りツアーは何度もあったのだが、それぞれタイトルが別。12月の弾き語りツアーはこだわりを持って“十二月”が用いられているようである。25年前から使用しているものだし、ご本人は当然としても、ファンにとっても思い入れのあるタイトルなのだろう。ご本人にその意図を訊いたとしたら、“12月にやるから”とか“ずっとそうだし”というコメントが返ってくるのかもしれないけれど、勝手に斉藤和義のぶれのなさを感じるところではある。そんなタイトルの由来はともかくとして、デビュー以来、弾き語りでのライヴを開催し続けていることは、何よりも彼のぶれのなさを示すところだろう。この『十二月』と同時にバンドでの演奏を収録した『Golden Delicious Hour』というライヴ盤を発表しているのがその何よりの証拠だと思う。バンドサウンドと弾き語りがあってこその斉藤和義なのである。

以前(というか、今回調べたら2000年頃の話なので、かなり昔)今も現役で活動する、とあるシンガーソングライターがバンドと弾き語りの違いについてこんなことを語っていた。バンドでは自分の演奏や歌と自分以外のメンバーの楽器が奏でる演奏とが合わさっていくのが楽しいし、それがピタリと合った時は実に気持ちがいい。ただ、時には自分のタイミングで“ここは少し溜めたい”とか“ここではテンポを速くしたい”と思うことがあって、それがバンドでは不可能。でも、弾き語りだとそれが容易にできる。そこが独りで演奏して歌うことの良さだけど、そればかりやっていると、バンド演奏が恋しくなる──。流石に細かい言い回しは忘れたが、発言の主旨はそういうことで間違いないと思う。ちなみ、それが今も自分にとってのバンド活動とソロ活動の違いの基準となっていて、シンガーソングライターにインタビューした折に引用させてもらうことがちょくちょくある。そうした場合、概ね同意される人が多いところをみると、これはそれなりに正鵠を射た話なのだろう。

その観点で斉藤和義『十二月』を鑑みると、これまた納得するところである。M9「月影」とM10「FIRE DOG」の収録タイムを見ただけでテンポの違いを想像できる。『十二月』ではM9が5:42で、M10が4:23。ともにスタジオ録音音源と尺が異なるのはもちろんのこと、いずれも『Golden~』にも収録されているのだけれど、そちらは前者が5:22で、後者が3:54と、『十二月』のほうが長い。とりわけM10は約30秒も長いのだから、聴く人が聴けば印象も変わるのだろう。ちなみに、『十二月』と『Golden~』には、M9、M10の他に「歌うたいのバラッド」と「ソファ」が収録されているのだが、こちらは『Golden~』版のほうの収録タイムが長い。聴き比べてみると、ともにアウトロでのバンド演奏が長くなっている印象がある。「歌うたいのバラッド」は『Golden~』版が『十二月』版よりも30秒も長いのだけれど、あの演奏の熱さが歌詞やメロディーとは別の言外のエモーションを与えているようで、それはそれでとてもいい。こちらはバンドの良さを示したテイクと言えるだろう。

OKMusic編集部

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