BUCK-TICKが
バンドの凄まじき成長と
進化を見せつけた初期の集大成
『殺シノ調べ
This is NOT Greatest Hits』

『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』('92)/BUCK-TICK

『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』('92)/BUCK-TICK

BUCK-TICKの櫻井敦司の突然の訃報から半月余りが経った。最初にその報道に触れた時の圧倒的な喪失感からは少し解放されたが、まだ現実味がないのが正直なところだ。追悼の意味でのアルバム紹介を考えても、どれをピックアップしたものやら…と迷っていたところ、“『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』がチャート浮上”とのネットニュースを発見。なるほど。最近、離れていたリスナーも、訃報に接してBUCK-TICKを聴きたくなったのだろう。それにしても、ベスト盤『CATALOGUE 1987-1995』ではなく、『殺シノ調べ』というのは、なかなか興味深い。BUCK-TICKの他のオリジナルアルバムは後日また当コラムで紹介すると思うが、ひとまず、今週はこの『殺シノ調べ』を取り上げることにした。

初期代表楽曲のセルフカバー

今、自発的にBUCK-TICKの音源を聴くと、櫻井敦司(Vo)がいなくなった現実をどうしても受け止めざるを得ないからだろう。いつもに増して気が乗らないというか、かなり億劫なままに『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』(以下『殺シノ調べ』)を聴いた。さすがに感傷的にはなるが、聴き進めていけばアガるし、改めてBUCK-TICKのポテンシャルを感じたところではある。以下、その辺をしたためてみたい。

まず、デビュー当時からのファンの皆さんはご存じのことだと思われるが、本作の制作背景を簡単におさらいする。この『殺シノ調べ』はセルフカバーアルバムである。1stアルバム『HURRY UP MODE』(1987年)、メジャーデビュー作であった2nd『SEXUAL×××××!』(1987年)、3rd『SEVENTH HEAVEN』(1988年)、4th 『TABOO』(1989年)、5th『悪の華』(1990年)、6th『狂った太陽』(1991年)からチョイスされた楽曲を再アレンジして新録している。そこに至った理由は[シングル「M・A・D」(1991年)のカップリングとして「ANGELIC CONVERSATION」を再録音し、その完成度にメンバーが予想以上の手応えを感じたことが本作制作のきっかけとなった。また、今井寿(Gu)は『狂った太陽』の完成度に手応えを感じ、まったく同じ方法論で過去の作品を再アレンジしたアルバムであると述べている]というWikipediaの説明が端的でその通りだったと思うが、思い出されるのは当時の今井の発言。あれは確か市川哲史氏によるインタビューだったと思う。『狂った太陽』制作後(だったか、「ANGELIC CONVERSATION」制作後)に “過去作を全て作り直したい”との今井発言が見出しに踊っていた。それが本当に『殺シノ調べ』の制作へとつながったことにちょっと驚いたとともに、市川氏の仕事っぷりに敬服した記憶がある。そもそもプロモーションの一環だったのかもしれないし、氏の取材を機に今井の創作意欲に火がついたのかもしれないけれど、いずれにしても、当時の音専誌にパワーがあったことも懐かしく思い出される。

また、『狂った太陽』での手応えについて言うと、手元に誌面が遺っていないのでうろ覚えで書くが、当時、今井がこんなことを言っていたことも思い出す。それまでは、各パートのアレンジはメンバーそれぞれが考えるのがバンドだと思っていたけれど、それだと収拾がつかないことも多々ある。曲を作った人間が各パートを全部アレンジして、それをメンバーに演奏してもらうスタイルがベターだと分かった──。細かい言い回しはこうではなかったと思うが、主旨はズレていないと思う。このやり方は作業が早いとも言っていたような気がする。つまり、個々の演奏スキルが上がってきたと同時に、主に作曲をしていた今井のアレンジ能力が飛躍的にアップした時期(というか、能力がアップしたことを自覚した時期)が『狂った太陽』の頃だったということになろうか。そう思うと、ことBUCK-TICKのサウンド面において今井が完全にリーダーシップを取るようになり、その体制のもとで、バンドを仕切り直したのが『殺シノ調べ』という見方もできる。本作にも収録されているM2「惡の華」に《遊びはここで終わりにしようぜ》という歌詞がある。『TABOO』までのBUCK-TICKが遊んでいたとは言わないけれど、よりプロフェッショナルな意識を強くしたのが『狂った太陽』であり、『殺シノ調べ』はその宣言とも言える作品だったと見ることはできよう。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着