『夏雲ノイズ』で示された
優れたバランス感覚に
スキマスイッチの秀でた
音楽的才能を見出す
堂々としたメロディーライン
まず『夏雲ノイズ』収録曲のメロディから見ていこう。歌の旋律は直球である。変に捻ったところがないと言ってもいいかもしれない。ロックやポップスからその枠をさらに広げて、唱歌や童謡にも近い旋律であるように思う。その分かりやすい例はM3「桜夜風」やM11「えんぴつケシゴム」だろうか。ベテランの作曲家が作ったような堂々としたメロディーラインである。老若男女、聴き手を選ばないと思わせるに十分な親しみやすさを有していると言い切っていいのではなかろうか。また、M6「ドーシタトースター」はクラシック的と言えるように思う。ピアノと歌というシンプルなサウンド構成なので、余計にそう感じるのかもしれないが、ピアノソナタの第○楽章…といった雰囲気すらある。シングルナンバーであるM3「ふれて未来を」、M4「view」、M12「奏(かなで)」のサビのキャッチーさも言うに及ばず、である。いずれも普遍的なメロディーと言っていい。どれがどうとは言わないけれども、もし〇〇〇〇や●●がカバーして、スキマスイッチのことをよく知らないリスナーがそれを聴いたとしたら、それぞれのオリジナル曲だと思ってしまうのではないか。個人的にはそう思うほどに、時代に左右されないメロディーであるような気がする。
歌を邪魔しない絶妙なアレンジ
M2「ふれて未来を」も同様。基本は4つ打ちのモータウンビート(?)で、ピアノにしてもオルガンにしても鍵盤が活きたポップなサウンド。こちらもホーンセクションが入っている上、さすがにシングル曲であるからかストリングスも配されている。そのストリングスには1番から2番の間ではサイケデリックな要素も入っていたりして、これもまたそうしたところだけを抜き出せば、マニアックな音作りがされていると見ることもできるだろう。しかしながら、全体的な聴き応えとしては小難しくない。そういう聴き方をすればそう聴こえるというだけで、歌を邪魔しない絶妙なアレンジが施されているのだ(M2の方が特にその意識が強いように思われる)。スキマスイッチの音楽はロックであって、しっかりとそのマナーに則ってロック史に敬意を表しつつ、ポップスに仕上がっている。そんな言い方でもいいだろうか。まさしく《これくらいがちょうどいい》(M2「ふれて未来を」)とばかりに音楽好き、ロック好きが喜ぶ要素を実にいい塩梅で注いでいるようである。
そのM1「螺旋」とM2「ふれて未来を」とが『夏雲ノイズ』においては(楽器が多いという意味で)最も派手なサウンドである。そんなところも本作の興味深いところでもある。オープニングでキャッチーに──いわゆる“掴みはOK”にしたかったのかもしれない。M3「桜夜風」以下は抑制の効いたサウンドも散りばめられていく。M3「桜夜風」は大橋、常田の他、事務所の先輩である山崎まさよしの3人でサウンドメイキングされたミッドバラード。そういうところも含めて、前述の通り、堂々とした印象があり、1stフルアルバムにして風格すら感じさせる落ち着いたナンバーである。その一方でM4「view」はメジャーデビューシングルらしい疾走感にあふれている。極めてロック的なギターのストロークがザラっとした音作りによってさらにワイルドに仕上がっている印象で、ドラマチックなサビメロを余計に際立たせているように思う。このテイクはシングル盤とは若干アレンジを変えているとのことで、その辺にもここまで述べてきたスキマスイッチのサウンド、そのバランス感覚がありそうだ。