“Jポップ”を創造した革命的なアル
バム! シュガー・ベイブの名盤『So
ngs』!

シュガー・ベイブは、山下達郎、大貫妙子が在籍した幻のスーパーグループだ。1975年にリリースされた彼ら唯一のアルバムは、何年経っても色褪せない名曲がぎっしり詰まっている。“Jポップはこのアルバムから始まった”と言っても過言ではない!

アメリカ・イギリスの先駆的作品に勝る
とも劣らない『Songs』

 今となっては想像もできないだろうが、60年代から70年代にかけての英米ポピュラー音楽シーンは、半年とか1年のサイクルで新しい音楽が登場してきたものだ。ビートルズ解散後のロックだけに限定しても、ハードロック、アートロック、プログレッシブロック、ブラスロック、フォークロック、ジャズロック、カントリーロック、サザンロック、ソフトロックほか、幅広く広がっていった。また、70年代初頭のバンドやシンガーたちの多くは、それぞれが独自の世界を持っており、魅力的なミュージシャンが大勢存在したのが事実である。今回紹介する『Songs』 は、シュガー・ベイブ唯一の作品であり、75年当時のアメリカ、イギリスの先駆的ミュージシャンがリリースした作品と比べても、その独創性において勝るとも劣らない…どころか、頭ひとつ抜きん出ているのは間違いない。

本格派のポップス志向を持ったロックグ
ループ

 シュガー・ベイブのメンバー詳細や経歴等については、こちらを参照してもらいたい。彼らはこのアルバム『Songs』1枚と、ここからカットしたシングル「Down Town」を1枚リリースしただけで解散してしまう。元はっぴいえんどの大瀧詠一(2013年12月に逝去)がプロデュースを担当、大瀧が主宰するナイアガラ・レーベル第一弾リリースということで、業界筋では評判になった。しかし、発売直後にレコード会社が倒産するなどの不運もあって、当時はまったく売れなかった。70年代の終わり頃から、達郎自身がヒット曲を出すようになり、彼が在籍していたシュガー・ベイブへの注目も集まるようになってきたのだが、初めてCD化されたのは、初リリースから約10年が経過した1986年のこと である。メンバーの山下達郎と大貫妙子が売れなかったら、再発されることはなく、幻の作品となってしまっていたかもしれない。
 彼らの音楽が売れなかった理由は単純だ。それは、当時の日本にまだシュガー・ベイブを受け入れる土壌がなかったからである。それまでにない、まったく新しい音楽であったために、聴く者がリアクションできなかっただけなのである。言い換えれば、彼らの音楽は時代の先端を通り越してしまっていたのだ。曲作り、演奏、コーラスワーク、どれもがあまりに斬新で、それまでにないスタイルだったから、認知されるまでに長い時間を必要としたのである。

“ロックもポップスだ”=“ポップスは
ロックだ”

 はっぴいえんどが、日本語でのロックを模索していたように、シュガー・ベイブはロックをポップスの一種として表現しようとしていた。当時、ロックをやっている人間の多くが“ポップスは歌謡曲だ”として切り捨てていたものだ。リーダーの山下達郎と、プロデューサー大瀧詠一は、当時の風潮とはまったく逆の路線で、自分たちの目指す音楽を構築しようと、何度も話し合いながら、“ロック=ポップス”だという核心に近づいていったのだと僕は推測している。
 現に達郎は、『Songs』30周年記念盤のライナーで、“(前略)~そんな中で、ひとつだけ変わらずに30年の時をつないでくれるもの、それはロックンロールへの忠誠心です。シュガー・ベイブのアルバムがどこからか流れてくるたびに、私は昔の自分から「おまえの中のロックンロールはまだ生きているか」と聞かれているような気になります。そのたびに私は「だいじょうぶ、まだ生きているよ」と答えるのです”と発言している。これはまさしく“ポップスもロックだ”という、彼の逆説的表現なのだ。
 そして、彼のこの精神は、彼や大瀧詠一に影響を受けたミュージシャンたち(ピチカート・ファイブ、オリジナル・ラブ、グレート3など、主に「渋谷系」)にも受け継がれているし、達郎の“先人たちの音楽を徹底的に学ぶ”という教え(?)もまた、しっかり受け継がれているのだ。

シュガー・ベイブの音楽性

 山下達郎は、今で言うところの完全な“ポピュラー音楽オタク”である。「はっぴいえんどの名盤」でも書いたが、この当時の日本では、フォーク、ロック、歌謡曲を愛好する若者は大勢いたが、自分の好きなジャンル以外は無視していた場合が多かった。中でも、ポップスに関してはロックと違って“ポップスでプロのミュージシャンになってやる”という若者自体、まずいなかった。しかし、達郎にはあらゆるポピュラー音楽の姿が見えていた。だからこそ、他のミュージシャンが手を出していなかった、ドゥーワップブルー・アイド・ソウルなどを、グループの音楽表現の基盤に据えようとしたのではないだろうか。音楽で飯を食うためには、人がやっていないことを目指し、そのために切磋琢磨するというのは当然なのだが、もちろん、それだけでプロになれるわけではない。達郎が音楽好きというレベルを明らかに逸脱するほどの“音楽オタク”であったがゆえに、自分の目指す音楽を明確にイメージできたのだろうと思う。
 もうひとつ、シュガー・ベイブの特徴として特筆すべきことがある。それは、ルーツ音楽臭がほとんど感じられないことだ。当時、はっぴいえんどをはじめとして、アメリカのロックに影響されたミュージシャンたちは、ブルース、R&B、フォーク、カントリー等、ルーツ音楽のバックボーンが必ずあった。これはザ・バンドからの大きな影響だと言えるが、当時の日本のミュージシャンはほとんど(ハードロックやプログレ以外は)、土臭い音楽を自分たちの音楽に取り込んでいたのだ。
 シュガー・ベイブに似たミュージシャンはアメリカにも少ないが、僕の知る限りでは、フィフス・アベニュー・バンド『The Fifth Avenue Band』(’69)、ピーター・ゴールウェイ『Peter Gallway』(’72)、エリック・カズ『CUL-DE-SAC』(’74)、ジョー・ママ『Jo Mama』(’70)、ダニー・コーチマー『KOOTCH』(’73)、ネッド・ドヒニー『Ned Doheny』(’73)あたりだが、面白いのは、これらのどの作品も売れなかったこと。シュガー・ベイブと同様に、リリースされてから何年も経ってから評価されているのだ。やっぱり、この手のサウンドに時代がまだ追いついてなかったってことだろうね。

収録曲

 75年発表のオリジナル盤には11曲が収録されており、最後の「Sugar」はおまけとなっている。このうち、「ためいきばかり」は村松邦男がリードボーカル、「蜃気楼の街」「いつも通り」「風の世界」の3曲が大貫妙子が、残りは山下達郎が歌っている。中でも、特によく知られているのが「DOWN TOWN」だろう。当時の日本ロック界にあって、シュガー・ベイブほど曲作り・編曲・コーラスワークを大切に(彼らのおかげで、現在は増えているが…)したグループはいなかった。
 グループ一番の魅力は、何と言っても達郎の伸びやかで美しい声。「SHOW」「DOWN TOWN」の冒頭2曲は、曲・歌詞・編曲・演奏・コーラスのどれをとっても完璧な仕上がりだけに、聴いている者は圧倒されてしまう。特に、若いJポップファンは“今のJポップと何が違うの?”と思うかも知れない。いやいや“このスタイルを作ったのがシュガー・ベイブなんだよ”と、おじさんは力説したい。大貫妙子が歌う曲は、線が細いなあとは思いつつも、ひとつひとつ言葉を大切にしながら丁寧に歌う姿勢に、目頭が熱くなる。やっぱり彼女の存在感はスゴイと再認識したのだった。
 他にも、リズムの多彩さやサックスソロの導入など、このアルバム由来の新しい試みがあるのだが、この作品の一番の功績は、これまで引きこもりがちだったロックを、陽の当たる場所に引っ張り出してくれたところである。若い人は何のことを言ってるのか分からないかもしれない…かつてロックは暗いロック喫茶やジャズ喫茶で、頭を振りながら聴くものだったのに、シュガー・ベイブが登場してからは、ロックは街を歩きながら陽の当たる場所で聴くもの…こんな大きな意識転換を生み出したグループが、偉大なシュガー・ベイブなのである。
SHOW
DOWN TOWN
蜃気楼の街
風の世界
ためいきばかり
いつも通り
すてきなメロディー
今日はなんだか
雨は手のひらにいっぱい
過ぎ去りし日々“60's Dream”
SUGAR

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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