TM NETWORKが
小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の
三位一体であることがよく分かる
『Self Control』

シンガー・宇都宮隆の重要性

歌を含めて、そのバンドアンサンブルを見ていこう。お題は引き続き、M4だ。イントロはシンセ。例のメロディーがまず2回繰り返される。バックはベードラとリムショットのドラミング。軽快なメロディーを軽快に支えている。リフレイン3回目(5小節目)からはベースが入る。所謂8ビートでのダウンピッキングのように聴こえるが(シンセベースっぽくもあるが…?)、音階を下げていくフレーズで、全体のサウンドの厚みはもちろんのこと、楽曲自体に広がりを感じさせる。また、ここでは♪チャカチャーンとギターがほんのちょっと鳴るのも、ここから何か始まる予感を如何なく伝えていると思う。ちなみにここのギターは小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロを彷彿とさせるのだが、本作の参加ミュージシャンとして佐橋佳幸氏もクレジットされているので、氏の仕事かもしれない(たぶんそうだろう)。リフレイン5回目以降はそのギターが若干増えているものの、大袈裟な変化ではなく、比較的落ち着いた感じで歌が始まる。その歌はそれほど抑揚はなく、例のリフレインのテンポに合わせている感じ。…と言っても完全にユニゾンとなっているのではなく、リフレインの隙間を埋めるかのように音符は多い。歌詞も相俟って情報量が多いということもできるだろうか。

宇都宮隆のヴォーカリゼーションも見逃せない。Aメロは、ラップに近いというと乱暴かもしれないけれど、音階の抑揚よりもリズミカルさを前面に出したようなところがある。それが、Bメロになると転調したかのようにメロディアスに展開する。この辺りを指して小室楽曲が“展開が激しい”と言われる所以だろうが、宇都宮の歌声、ヴォーカルパフォーマンスは、その淡々としたAメロからBメロへ移り変わる歌の主旋律の段差といったものを感じさせない。Bメロを聴けば分かると思うが、決して癖のない没個性なタイプのヴォーカリストではないし、ましてや抑揚がないわけでない。何と言うか、楽曲を構成するパートのひとつに徹する、プロフェッショナルのヴォーカリストとしてのスタンスがうかがえるのである。楽器のアンサンブルの話に戻すと、Aメロ後半からBメロにかけては、エレキギターのカッティングが比較的多めに重なる程度で、そこまで聴こえなかった新たな楽器が奏でるメロディーが差し込まれることもない。楽器の派手なパフォーマンスはなく、Bメロへのメロディー展開こそが楽曲の肝である。それを一手に引き受けているだけでも、宇都宮のボーカルの重要性が分かろうというものだ。

サビは多くの方がご存知の通り、例のリフレインのメロディーが《Self Control》とそれに続く《今までのぼくは》などに分かれて構成されている。ここまで再三言ってきた、おそらく小室哲哉がシンセで奏でている主旋律を、単にヴォーカルへと渡されるだけでなく、木根尚登の声をサンプリングしたコーラス(?)と宇都宮の声で引き継がれる。改めて考えると、この構造は結構面白い。同じメロディーが、楽器から歌に変わるだけでも、それなりの面白さを感じられるところだが、それがラジオエフェクトのかかった声と生声に分かれている。イントロから耳にしている主旋律が再びサビで意外な形で聴こえてくるというのは、今となってはそれに慣れてしまったところはあるけれど、初めて聴いた時はかなり新鮮ではあっただろう。キャッチーなメロディーをリスナーにより印象づけることに大きく貢献したとも思われる。また、小室から木根、宇都宮に引き継がれるというのは実にバンド的でもある。

OKMusic編集部

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