SAの驚異的潜在能力が
そのまま再現された
『YOU MUST STAND UP
MY COMRADES』
すでに光沢を放っていた原石たち
「I GET POSITION」以外の『YOU MUST~』収録曲は、1985年頃に存在していたものをゲストメンバーを迎えて録音したものであるということは、バンド結成から15年後に“磨けば光る原石”を磨いたものと言うことができる。最初のライヴで演奏され、のちにAAレコードから発売されたオムニバス盤『Oi of JAPAN』(1986年)にも収録されたM1「YOUTH ON YOUR FEET」は流石のカッコ良さである。勢いはそのままにブラッシュアップに成功している。その歌詞から本作『YOU MUST~』のタイトルが付けられたM5「(GOOD BYE) SHINING FIELDS」もいい。ポップでありながら重厚感があり、熱さも感じられるところはSAならではのものだろう。M1、M5はメジャーからリリースされたベストアルバム『ハローグッドバイ』(2016年)にも収録されているので、バンド最初期の重要ナンバーであることはメンバーも認めていると思われる。
個人的に本作で最も注目したのはM13「WORKING MAN」。アルバムのフィナーレを飾るバラードである。こうしたミドル~スローなナンバーを最初期のSAでやっていたことに、まずは少し驚いた。これもまた、当時のSAがパンクだけではなく、幅広い音楽性を標榜していた証拠でもあるだろう。バラードに驚いただけでなく、その歌のメロディーラインの流麗さにも関心させられた。パンクというと歌詞も含めて直情的なものが多い印象はあって、それこそ本作でもそれが分かるが、M13は何とも叙情的なのである。
《失う物が多すぎて 諦めを何度 口にしただろう/若さゆえの過ちだけど 誰かの手なんかで 消されるな》(M13「WORKING MAN」)。
歌詞は、アグレッシブな言葉だけじゃないけれど、“労働者”というタイトルも含めてちゃんとパンクだ。ここでもSAのポテンシャルの高さと独自のセンスがうかがえる。サウンドコラージュを加味したイントロもそうだし、重めのストリングスを入れることでサイケデリックロックな匂いをさせているサウンドも興味を惹く。この辺は2000年にSAを再始動する前、TAISEIがヴォーカルを務めてメジャーで活動していたバンド、BAD MESSIAHの影響も少なからずあったと思われる。影響と言っても、BAD MESSIAHの音楽性がそのままSAに引き継がれたとかそういうことではなく、メジャー経験で培われたアレンジ面やレコーディングにおける技術など…であるが、そういったところも余すところなく注がれているのが、2000年以降のSAだろう。この辺からは大袈裟に言うと、TAISEIというアーティストの人生を綴った大河ドラマ、その1シーンを見るような想いがある。
TEXT:帆苅智之
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