『m.c.A・T』は
日本ヒップホップシーンを加速させた
音楽史上での重要作であると思う

メロディーに重きを置いたナンバーたち

今回、改めてアルバム『m.c.A・T』を聴いてみて、m.c.A・Tが如何に日本のメインストリームにヒップホップ、ラップミュージックを浸透させようと腐心していたのかを感じることができた。“意識的に制作したラップミュージック”と前述したのはそれもある。おおよそ30年前の音源であるがゆえに隔世の感があるのは当たり前としても、明らかに大衆を意識していたと思わせる節がある。他のヒップホップと粒さに比べてみたわけではないけれど、メロディーが突出していることははっきりしていると思う。デビューシングルであるM8「Bomb A Head!」。ヴォーカルパートをざっくり分けると、(1)《Bomb A Head! Bomb A Head!》のリフレインから始まるブロック、(2)《Everytime 踊る 夢が踊る》もしくは《Everytime Love U いつでも Want U》から始まるブロック、そして(3)ラップのブロックで構成されている。メロディーアスなのは言うまでもなく(2)。しかも、この構成の中で最も回数多く登場するのも(2)である。ポップミュージックで言うところのサビに当たる。高音に突き抜けて行く気持ち良さを持ちながら、サビ後半では《かきけすためのダンス2ダンス!》とダメ押し気味に叙情的な旋律で締め括る。キレもいい。《Bomb A Head!》という言葉とそれをリズミカルに歌う(?)箇所は楽曲中で最もキャッチーであり、印象も強いが(だからこそ楽曲タイトルなのだろう)、少なくとも《Bomb A Head!》がリピートされる箇所は思ったほどには頻出していないことが分かる。メロディーだけを聴かせようとしているわけではないことも確実だが、メロディーに重きを置いているのも確実である。

2ndシングルとなったM2「Coffee Scotch Mermaid」はどうだろう。ソウルフルな女性ヴォーカルで繰り返さる《Coffee Scotch Mermaid》はコーラスといった印象であり、メインとなっているのはそれに続く《絶え間なく/微笑みのシャワー浴びて》の箇所であるのは明らかである。これも《季節がおまえ呼んでる》と歌い上げている。もちろんM2にはラップパートもあるけれど、いわゆるCメロに該当する《ひとりじめにしたい 夜更けも朝も/夏が開いた心を今奪ってみたい》もあるなど、J-POP寄りのR&Bと言ってもいい作りなのである。

3rdであったM3「Funky Gutsman!」も方向性は同じ。というか、よりはっきりとメロディー指向であることを示しているように思う。サビ頭で、《熱い熱い命 Funky Gutsman!》からしっかりとメロディーがあり、コーラスなしでm.c.A・T本人が歌っており、どこか精神的に突き抜けているようにすら感じる。《おお さびしさも 見せやしない》や《おお くやしさも ジョークにかえて》などの箇所(ここはBメロに当たるか)も歌い上げている。トラックで言えば、M2は軽快なギターのループミュージックであるし、当時らしくスクラッチノイズも加えている。M3のイントロで聴かせるサンプリング的なサウンド(レコードを使っているかもしれない)を聴くことができる。もちろん全てにおいてラップもある。完全にヒップホップである。しかしながら、歌要素の強いヒップホップと言っていい代物なのである。

OKMusic編集部

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