【ライヴアルバム傑作選 Vol.4】
斉藤和義の弾き語りライヴの良さが
凝縮された『十二月』

弾き語りならではアレンジの変化

一方、『十二月』には弾き語りの良さといったものを感じられるテイクが豊富に収められている。まず、M2「Hey! Mr.Angryman」。シングル、もしくは6thアルバム『Because』収録の音源はシャッフルビートのアップチューンで、ファンならば聴き比べるまでもなく、このM2のテンポがゆったりとしていることが分かるだろう。このテンポのほうがメロディーの良さを味わえると個人的には思うのだが、それはそれとして、シングル&6thアルバム音源では間奏からCメロにかけてバンド演奏ならではのアレンジが施されている。それはパッと聴きには独りで表現不可能と思われる代物であって、そこをまったく無視することもできたとは思う。歌メロがいいだけに、それでもM2は成立したはずである。だが、斉藤和義はアコギ1本での再現に、果敢に(?)挑戦している。そうは言っても、曲芸的な演奏を繰り広げるとかそういうことではなく、具体的に言うと、それまで緩かったテンポを速め、極めてロック的なギターソロをアコギのストロークで聴かせつつ、Cメロに入っていく。そして、再びテンポを緩める、といった具合だ。スタジオ音源の鋭角的な部分を、演奏の緩急を付けることで表現したと言って良かろう。まさに弾き語りの良さだ。

M8「引っ越し」はオリジナル版を忠実に弾き語りで表現しているように思う。M8はもともと3rd『WONDERFUL FISH』版もアコギ基調ではあるので、出だしこそそこまで大きく印象は変わらない。ただ、『WONDERFUL FISH』版は途中からバンドサウンドが入り、Cメロへ突入し、再びアコギ基調になっていくという展開であって、中盤ではサウンドの圧が強くなる。M8ではM2同様にそこをアップテンポにしている。メリハリを強くすることで、Cメロとその他の箇所とのコントラストをはっきりとさせている印象がある。面白いのは──というか、聴く人が聴けば当然のことなのだが──そのCメロへ入る前、アコギのストロークが一旦終わったところで、歓声や拍手が一切聴こえないところ。皆、オリジナルを聴いているのでここからCメロへ入ることを理解しているはずで、短いブレイクポイントながらステージ上の演奏がどういう風に展開になっていくのか興味津々で見つめているようである。少なくともその雰囲気を感じる取ることができる。こういう空気感が収められているのはもライヴアルバムの妙味だろう。

M11「僕の踵はなかなか減らない」も興味深い。これもまたもともとの5th『ジレンマ』版がアコギのリフが基調でそこにバンドサウンドを併せている感じではあるので、弾き語りでも十分に演奏しやすいナンバーではある。それゆえなのか、だいぶフリーキーにアレンジを施している。1番終わりで3拍子になるところや、それこそイントロでシンセのサウンドを♪ギュイーン〜と口ずさむ辺りも含めて、前半はスタジオ音源を忠実に再現することを心がけているようだが、中盤からはライヴならではアドリブ(たぶん)が聴ける。3拍子のあとで演歌調のメロディーを弾いたかと思えば、アコギでオーディエンスとのコール&レスポンスを繰り広げる。M11は本作の他、『十二月 〜Winter Caravan Strings〜』(2002年)や 『弾き語り 十二月 in武道館 〜青春ブルース完結編〜』(2005年)、『Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02』(2018年)にも収録されていて、少なくとも初期ライヴの代表曲といった感じでもあったようで、ファンにしてみれば、間奏でのやり取りもお馴染みではあったのだろう。本作を聴く限り、予期せぬ感じでコール&レスポンスが始まった印象ではあるが、それでも観客もしっかりとついてきているようだ。そのアーティストとファンの関係性もなかなかいい感じである。また、これは本作からは若干離れるが、本作以外のライヴ盤でも「僕の踵は~」の間奏では必ずアドリブ的な演奏を入れているようで、その辺でも斉藤和義のぶれのなさを感じ取れると言えるかもしれない。

OKMusic編集部

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