【ライヴアルバム傑作選 Vol.4】
斉藤和義の弾き語りライヴの良さが
凝縮された『十二月』

歌詞の普遍性に見る斉藤和義らしさ

斉藤和義があらゆる楽器を演奏するマルチプレイヤーで、自身の音源はそのほとんどを彼が演奏していることは、ファンならずともよく知る話ではないかと思う。アルバムで言えば、1997年の5th『ジレンマ』から全ての収録曲のアレンジと演奏を彼ひとりでやり始めたというから、『十二月』が収録された1998年には、言わばその“完全セルフプロデュース”が板に付きつつあったと言ってもよかろう。その辺をうかがえるのがM6「君が百回嘘ついても」。本作ではこのM6だけが唯一、いわゆるリズム隊が入っている。手元に正式なクレジットがないので、もしかするとこの演奏にはゲストプレイヤーが参加しているのかもしれないが、このツアーは弾き語り公演だったということだから、その可能性は薄いと思う(間違っていたらごめんなさい)。M6は同期演奏であろうし、ライヴステージでも自らのスタイルを実践し、ライヴ盤に収録する辺りにも彼らしさを垣間見ることができるのではなかろうか。

個人的に最も斉藤和義というアーティストのぶれのなさを感じたのは収録曲の歌詞である。とりわけM1「tokyo blues」の内容にそれを感じた。「tokyo blues」は1st『青い空の下…』の1曲目でもあるので、本作『十二月』というよりも、デビュー時からまったくぶれていないというのが正確かもしれない。

《今朝も井の頭通り Bike Bon Bo Bo Boon!/環八越えたあたりで すでに10分の遅刻》《早いもんだなこの街に来てあっという間に2年半》《今日も込みっぱなしの首都高 これじゃ何時に着くことやら》《時計は回り続ける 俺にゃとても止められない》(M1「tokyo blues」)。

時間がよく出てくる。先日、斉藤和義にインタビューさせてもらい、22th『PINEAPPLE』について語ってもらったのだが、その最新作の収録曲も“時”や“時計”といった言葉が目立ったので、その辺りをストレートに尋ねると、無意識に口を衝いて出てきたものだという返答であった(是非そのインタビューの全文もお読みくださ!)。「tokyo blues」の歌詞にもまさにそんな印象がある。おそらく上京して2年半後の偽らざる気持ちやある日の情景が落とし込まれているのだろう。筆者の推測ではあるものの、そこに斉藤和義らしさを感じるところではあるし、この辺はデビュー当時から変わりがないところではないのだろうか。あと、M1の歌詞で言えば、斉藤和義は[自身の発言や、ミュージック・ビデオでのパロディなどから、下ネタ好きとしても知られる]とも言われているが、それを確認できるところではある([]はWikipediaからの引用)。オリジナルでは《飲んでくだまいて寝るだけ》のところがちょっとだけ変わっている(観客も笑い声も少し入っている)。
■【斉藤和義 インタビュー】
今回はアコギのロックアルバムにしたいと思っていた
https://okmusic.jp/news/517183/
もうひとつ、真面目なところで言うと、M12「ソファ」の歌詞もいい。これもまた斉藤和義のロックシンガーとしてのぶれのなさが分かると思う。

《馬鹿な事件を馬鹿が真似して/馬鹿が次々大袈裟にする/僕はといえばずっとソファで/そんな興味のない知識を見る》(M12「ソファ」)。

オリジナル音源の17thシングルが発表された1998年12月にはまだ炎上だ何だという現象もなかったはずだが、それらを揶揄したものと受け取ることもできる。斉藤和義がいかに普遍的なものの見方をしているかをうかがうことができると思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『十二月』1999年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.tokyo blues
    • 2.Hey! Mr.Angryman
    • 3.空に星が綺麗
    • 4.郷愁
    • 5.彼女
    • 6.君が百回嘘ついても
    • 7.歌うたいのバラッド
    • 8.引っ越し
    • 9.月影
    • 10.FIRE DOG
    • 11.僕の踵はなかなか減らない
    • 12.ソファ
『十二月』('99)/斉藤和義

OKMusic編集部

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